法律コラム

【令和7年施行】改正育児・介護休業法(第2回)ー介護に関してー

2025年 7月 2日

令和7年(2025年)に施行される改正育児・介護休業法のうち、育児に関する改正点については前回のコラムで解説を行いました。第2回となる今回は、介護に焦点を当てた解説を行います。育児に関するコラムと併せて、ぜひ参考としてください。

1.介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

要介護状態にある対象家族の介護や、介護サービスの提供を受けるために必要となる手続きの代行などを行う労働者は、1年度において5労働日※を限度とする休暇を取得可能です。この休暇を「介護休暇」と呼びますが、全ての労働者を対象とする必要はなく、労使協定の締結をもって、一部労働者を対象から外すこともできます。

※対象家族が2人以上の場合は、10労働日

改正法施行前においては、労使協定を締結することで、下記の労働者を介護休暇の対象から除外可能でした。

  1. 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  2. 事業主に引き続き雇用された期間が6か月に満たない労働者

これまでは、入社後6か月未満の労働者は制度の対象から除外可能となっていました。しかし、法改正によって上記の2は撤廃されています。そのため、2025年4月からは、たとえ労使協定を締結しても入社後6か月未満の労働者を除外できないようになっています。これは子の看護休暇と同様の改正点であり、労働者が制度をより利用しやすくするための変更です。

改正法施行後は、「1週間の所定労働日数が2日以下」の労働者しか対象から除外できないことに注意するとともに、当該規定を定めた就業規則等があれば、改訂が必要となります。また、介護休暇はパートやアルバイトであっても当然に取得可能であり、雇用形態や労働時間などを制度利用の条件とすることは許されません。

2.介護離職防止のための雇用環境整備

少子高齢化の進展によって、生産年齢人口が減少し、働き手の確保が困難となっている昨今、介護を理由とする離職は避けたい事態です。介護離職を防止するためには、介護休業や介護両立支援制度等(所定外労働や深夜業の制限など)の利用が不可欠となります。しかし、制度への理解が足りていなかったり、他の労働者への配慮が必要であったりするなどの理由から、介護休業等の申し出が円滑に行われないケースも多く見られました。

改正法の施行により、事業主は介護離職防止のための雇用環境整備として、下記のいずれかの措置を講じなければなりません。

  1. 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
  2. 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  3. 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
  4. 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

上記1~4のうち、いずれかの措置を講じることが事業主の義務となりますが、いずれかひとつではなく、可能な限り複数の措置を講ずることが望ましいとされています。また措置を講ずる際は、1か月以上の長期にわたる介護休業の取得など、短期の休業だけでなく労働者が希望する期間の休業を取得できるように配慮することも求められます。

(1)研修の実施

「介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施」においては、雇用する全ての労働者を対象とした研修であることが理想です。性別や役職、雇用形態等を問わず、全ての労働者が制度への理解を深めれば、制度利用の申し出もより円滑に行えるようになります。

時間や金銭的な理由から、全労働者を研修の対象とすることが難しい場合も多々あるでしょう。しかし、そのような場合であっても、研修を実施しないという選択は許されず、少なくとも管理職は研修を修了した状態でなければなりません。

(2)相談体制の整備

「相談体制の整備」では、相談窓口や担当者を設置することが必要とされます。ただし、相談窓口や担当者は、ただ設置しただけのような形式的なものであってはなりません。研修等を修了した担当者が対応する、実質的に機能する相談体制を整備することが求められます。また、設置した窓口等を労働者に周知することも必要です。相談窓口のメールアドレスやURLを定め、労働者が利用しやすい体制を整備しましょう。

(3)事例の収集・提供

「事例の収集・提供」においては、自社の介護休業・介護両立支援制度等の取得事例を収集し、労働者が自由に閲覧できるよう措置することが必要です。具体的な閲覧方法としては、収集した事例が記載された文書等を労働者へ直接配布したり、イントラネットへの掲載を行ったりすることなどが考えられます。

事例の収集・提供に当たっては、提供事例が特定の性別や職種、雇用形態等に偏っていることは好ましくありません。可能な限りさまざまな労働者の事例を収集・提供することによって、介護休業等の申し出がより行いやすくなる等、雇用環境の整備につながるような配慮が求められます。

(4)取得促進に関する方針の周知

「取得促進に関する方針の周知」とは、介護休業等の制度および介護休業等の取得促進に関する事業主の方針を記載した文書の配付や掲示板、イントラネット等への掲示を意味します。どのような制度があるかを示したうえで、会社が制度の取得促進を後押ししていることを周知すれば、利用の申し出も行いやすくなります。文書を配布したうえで掲示板やイントラネット等へ掲示すれば、より効果も高くなるでしょう。

3.介護離職防止のための個別の周知・意向確認

2025年4月以降、事業主は介護に直面した旨を申し出た労働者に対して、介護休業制度等に関する以下の事項を周知するとともに制度利用の意向確認を個別に行わなければなりません。

  • 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
  • 介護休業・介護両立支援制度等の申出先(人事部など)
  • 介護休業給付金に関する事項

介護に直面した場合に利用可能な制度を示すとともに、個別の意向確認を行うことで、制度の利用をより促進し、介護離職の防止につなげることが目的です。当該周知および意向確認は、日雇いを除き、パート等の有期雇用労働者も対象となります。

利用促進を目的としているため、制度の利用を控えることにつながるような周知・意向確認は認められません。たとえば、制度の利用を行った場合には、評価を下げることを示唆するような言動が該当します。制度自体は存在するが、今まで誰も取得していない、など制度の利用が困難であることを殊更に強調するような場合も該当するでしょう。

【個別周知・意向確認の方法】

個別周知・意向確認は、以下のいずれかの方法によらなければなりません。

  1. 面談
  2. 書面交付
  3. FAX
  4. 電子メール等

1に関しては、オンラインによる面談も可能です。また、3、4については、労働者が希望した場合にのみ可能であり、原則は面談や書面交付によることになります。4の電子メール等については、メールだけでなく、SNSやイントラネットなども含まれます。労働者の意見を聴いたうえで、労働者にとって利用しやすい方法を選択しましょう。

4.介護に直面する前の早い段階での情報提供

事業主は、介護休業制度等の理解と関心を深めるため、労働者に対して、介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供しなければなりません。

  • 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
  • 介護休業・介護両立支援制度等の申出先(人事部など)
  • 介護休業給付金に関する事項

労働者が介護に直面する前の早い段階(40歳等)において情報提供を行うことで、両立支援制度を活用できないまま、介護離職に至ることを防ぐことができます。個別周知・意向確認と同様に、日雇いを除くパート等の有期雇用労働者も情報提供の対象となります。

情報提供に当たっては、介護休業制度等の目的や趣旨を踏まえたうえで行うことや、介護保険制度についても周知することが望ましいとされています。

【情報提供期間および提供方法】

情報提供を行うべき期間は、下記のいずれかです。

  1. 労働者が40歳に達する日(誕生日の前日)の属する年度(1年間)
  2. 労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年

1の年度は、4月1日から3月31日までに限られず、各事業主において、ぞれぞれの年度(1月1日から12月31日まで等)を設定可能です。

情報提供の方法は、以下のいずれかによることが必要です。

  1. 面談
  2. 書面交付
  3. FAX
  4. 電子メール等

1の面談については、オンラインによることも可能です。情報提供に関しては、個別に行うだけでなく、対象者を一堂に集めて行うことも認められています。

5.改正への対応を介護離職防止につなげよう

今回の改正では、育児と同様に介護においても、対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが事業主に努力義務化されています。当コラムで紹介した他の改正部分とは異なり、義務ではありませんが、介護離職防止につながる施策ともなるため、可能な範囲で導入を検討してください。

今回のコラムでは、2025年4月から施行されている改正育児・介護休業法のなかでも介護に焦点を当てた解説を行ってきました。法改正への対応は窓口の設置や担当者の選任、就業規則の改訂などを伴い、手間が掛かるものです。しかし、それらを単なる負担と捉えずに介護離職防止につなげるための投資と考え、より仕事と家庭の両立を図りやすい職場環境の整備につなげてください。

監修

涌井社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 涌井好文