2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化されます。(第4回)パワハラの事後対応について ~パワハラが起きてしまったら、どうしたらいいの?~

2022年 3月15日

解説者

弁護士 前波裕司

パワハラ対策において、予防的な対応がとても大事だということは、この文章に接していただいている方には、十分ご理解いただいていると思います。しかし、予防してもパワハラが生じてしまうことはあります。そして、パワハラは、加害者を罰すれば済むという問題ではなく、その対応によって、様々な影響が生じることもあります。本稿では、パワハラの事後対応を中心に、どのような意識でどのように対応すればいいか、法的な解説というよりは意識や行動として抑えるべき点を一つの参考としてお伝えしたいと思います。

1.パワハラの対応は、会社そのものに影響を与えます。

【パワハラが起きたら、加害者を罰すればいいだけではないのか。】

パワハラは、周りも見ているし、職場の内外の人がどうなるか注視しています。パワハラの存在は職場の雰囲気に直結し、仕事の生産性を低下させます。また、当事者の家族や友人も、その問題の影響を受けていることもあります。そして、パワハラが生じてから解決されるまでがパワハラ問題ですので、その解決の在り方も、職場の雰囲気や生産性に強く影響しますし、当事者の周囲の人の安心感にもつながります。決して、当事者だけの問題ではありません。加害者を決めて魔女狩りのように罰することは、より問題を大きくし、社内の空気を悪くしかねません。

パワハラ事案には、行為者と対象者がいます。加害者と被害者と呼称する向きもありますが、内容が分からないうちから加害のレッテルを貼ることは慎むべきですし、パワハラの多くは関係性のずれ(求め方と受取り方の違い)によることが多く、害悪の存在を前提とした呼称は事案を見る目を曇らせる恐れがあります。ですので、行為者と対象者と呼称したほうが適切と思います。

パワハラは、セクハラ等とは異なり、業務関連性があります。結果中心に仕事をとらえる行為者が、自分だったらできる仕事だと考え、過程を大事に仕事をする対象者に対し、すぐに結果がでるものと思い込んで業務命令を下した結果、対象者が結果を出せずに行為者の指導に対しパワハラ被害を訴える、というのがパワハラが生じる一つの場面ですが、その構図の中では、どちらかが一方的に攻められるべきではありません。仕事を結果中心にとらえるか、過程を大事にするかは、業務の性質から求められることもありますが、基本的には、その人の考え方と思われます。どちらが悪いとかではなく、パワハラは生じてしまうこともあります。

大事なのは、そのような食い違いの原因を探し、その関係性を改善する道筋を作ることです。もちろん、過度の被害者意識を持った対象者があまりに行為者を恐れていたり、行為の意味を理解しようとしない行為者が自分を正当化し続けるようなケースでは、関係性の修復は難しい場面もありますが、それでも問題の所在を確認したうえで、それぞれの特性に合った今後の業務指導につなげるべき必要性はあります。そういったパワハラ事案を契機として、よりよい職場環境を作るような意識で対応することが、当事者だけでなく、周囲の関係者の意識にも影響するということは意識していただきたいと思います。

2.パワハラの初期対応はどうすればいいか。

【パワハラがあったら、まず、どうしたらいいのか。】

初動としては、まず状況を収めて冷静になってもらうようにします。行為の直後、当事者は、それぞれ通常ではない心理状態にあり、ある意味、自分を見失っているといえます。その状態では、物事の整理もつかず、自分を正当化しようと自分の心理状態を周りに押し付けるような行為に終始しがちです。当事者を引き離すことが肝要です。状況を変えないと鎮静化には向かいません。

そして、できれば、その場限りでも謝罪をさせるべきです。加害の有無が分からない状態で謝罪をさせるということに違和感を感じる方もいるかもしれません。悪いことをしてないのに謝るというのはおかしい、と思う当事者もいるでしょう。しかし、そのようなトラブルのきっかけを作ったことは、それ自体が問題であり、行き過ぎている部分は少なからずあるものです。当事者として防ぐ手立てがあったかもしれないのに、防ぐことができなかった、ということでもいいですし、「かもしれない」でもかまいません。極論を言うと、口先だけでも構いません。とりあえず、「少し言い過ぎたかもしれないので、それについては申し訳ない。」という程度の一言の謝罪があるだけで、感情の鎮静化は促進されます。場合によっては、対象者の過度な反応があった場合には、「こちらも態度が悪かったかもしれません。」くらいの一言を対象者に求めてもいいかもしれません。感情的な対立に歯止めをかけるためには、とりあえずの謝罪がとても大事と思います。

そのような形で、当事者の気持ちをクールダウンさせることが、初動では重要です。

3.パワハラのその後の対応はどうすればいいのか。

【パワハラの事後対応は、どこまですればいいのか。】

時間や場所を変えることによって、クールダウンできたら、出来事や気持ち等を整理し、内容を確認することになります。当日に別室で行うのか、別日に行うのかは、状況次第ですが、それぞれに対し、聞き取り等を行うことになります。

聞き取りという言い方をしましたが、当事者に経緯を書面でまとめてもらうことでもいいですし、面談によって聞き取る方法も含め、状況によってさまざまな方法があると思います。その際、大事なのは、できるだけ当事者に自発的に説明させることです。決して、先入観を持っての詰問などはしてはいけません。その聞き取りは、会社側が内容を把握することも目的の一つですが、それよりも大事なのは、当事者に出来事を振り返ってもらい、冷静に整理してもらうことです。

ですので、聞き取りの担当は、できるだけ中立な人が行うべきです。得てして、その部門の上位者が担当することが多いように思われますが、対象者よりも行為者に位置が近いと思われると、対象者は自発的に表現することが出来なくなってしまいますし、聞き取り担当者が行為者と同様の先入観を持っていたりして、客観的な事案の整理ができない可能性も出てきます。指揮命令と直接関係のない総務担当者や、別部門など、一定の中立性があり、当事者と等距離にあると思われる人が聞き取りを行ったほうがいいと思います。社外であれば、より中立です。

そして、聞き取りに際しては、できるだけ、当事者に思い出してもらい、内省的な部分、自分はどうしてそのような状態になったのだろうか、ということを振り返ってもらうように意識する必要があります。その過程を通じて、内容や気持ちの整理をしてもらうよう心掛ける必要があります。その手助けを聞き取り担当者が行う感じです。

そのような方法により、事案の整理を行い、適切な対応を行います。懲戒的な措置が必要な場合もあれば、配置転換、口頭注意や訓戒等でとどめるなど、事案に応じた処理を行います。一定のルールの策定も必要になるかもしれません。その際にも、大事なのは、当事者が内省を今後の業務に生かし、職場環境をよくしていくことです。処罰的な対応自体は決して前向きなものとはいえませんので、今後の職場環境に不可欠といえる場合にのみ行われるべきと思います。

その後は、その処置の影響等も確認する必要があるでしょう。

4.パワハラの事後対応のため、備えておくべきことは。

【事後対応のために準備しておくべきことはあるか。】

これまでの話に沿って、どのような準備が必要かと考えた場合、準備すべきは聞き取り等の担当者の準備になります。

まず、人的な準備として、担当者候補を何人か準備したほうがいいでしょう。その際、会社の状況にもよりますが、社外の第三者に予め頼んでおくこともいいと思います。

また、担当者が利用する、簡単なマニュアル等も準備しておいた方がいいでしょう。パワハラ対応のマニュアル的なものは、様々なものが刊行されています。それらを参考に使いやすいものを準備しておいた方がいいでしょう。

それらについて、あらかじめ、弁護士さんにパワハラ事案の調査の対応を依頼しておくのが、ある意味簡便と思われます。聞き取りも、やり方を間違えると解決を遠ざけることもあります。また、社内でそういうイレギュラー対応もなかなか大変なのが現実と思います。手前味噌な発言で恐縮ですが、予め対応可能な弁護士に依頼しておくことは、事案が発生したときの保険的な意味合いですし、コンプライアンス上も評価も上がると思います。実際に稼働したときの費用を予め確認しておけば、問題解決のための負担として過大なものとはならず、有益ではないかと思います。

なお、冒頭で触れた通り、本稿では、あえて法的な部分について捨象している点はご容赦ください。窓口設置の必要性、聞き取り時の配慮、懲戒処分等の段取りや就業規則の確認、再発防止に向けた組織的対応など、解説すべき点は多岐に渡ります。それらについては、他の論考や刊行物などを参照していただければと思います。

問題解決のための対応として一般化できる内容もあるかと思いますので、ご参考の上、よりよい会社作りにお役立てください。

以上

上記の通り、弁護士はハラスメントに関する相談をお受けしています。もしも相談する弁護士がおられない中小企業経営者の相談へとつなげる窓口として、日弁連には、ひまわりほっとダイヤルが設置されております。 

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解説者

弁護士法人前波法律事務所 代表社員 弁護士 前波裕司