2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化されます。(第2回)~セクハラ・マタハラ対策はどうなっているの?~
2021年12月15日
- 解説者
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弁護士 横田亮
1.この発言、ハラスメントでしょうか?
筆者は、次のような相談をある中小企業の経営者から受けました(ケース1)。
その社長さんがおっしゃるには、「ある女性従業員から、妊婦健診のために休暇を取得したいと相談をうけました。私は、『病院は休みの日に行くものだと考えています』と伝えました。その女性従業員は何も言わず、黙って、土曜日に検診を受けに行ってくれました。彼女はわが社としてはとても貴重な人材で、休まれると職場が回らないからこそ言ってしまったのですが、最近、職場のハラスメント防止対策を強化する法律ができたと聞いています。ひょっとして何か問題のあることを言っていませんでしたか?」とのことでした。
また、次のような相談を別の中小企業の人事担当者からも受けました(ケース2)。
その会社の総務の方がおっしゃるには、「ある女性従業員に、『いつからいつまで育休を取得する予定ですか』と言ったら、『私を邪魔者扱いするんですか』と言われました。わが社としてはその女性従業員が育休を取る期間の業務分担を見直すために確認を取っているのですが、これもハラスメントになるんですか?」とのことでした。
2.ハラスメントに関する問題状況~労働施策総合推進法等の2019年改正とその背景
上記のケースにおける社長さんも総務の方も、職場における従業員の人格的利益を保護する意識が比較的高い部類の経営者であり、また人事担当者であると筆者は思いました。ある女性従業員から産休の取得について相談されて、平気で「他の人を雇うので、早めにやめてもらうしかない」と言われる方もたまにおられます。あるいは、男性従業員から育児休業の取得について相談されたら、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない、考えが甘い」と言われる方も、残念なことですが、おられるのもまた現実なのです。
国際労働機関(ILO)の1919年設立にあたり、ヴェルサイユ平和条約「第13条 労働」「第1款」前文で「労働は単なる商品にあらず」という理念が述べられています。労働力という生産要素は労働市場では「商品」であっても、生身の人間と不可分であり、その面からの保護を要する、ということ、それが、経営者と従業員との共存による継続的な経済成長を産むことは古くから言われてきたことです。しかしこのことは企業競争の激化でつい忘れられ、目先の効率を求めて、「いじめ」や「嫌がらせ」による労務管理による経営、あるいは、育児休業や介護休業をともすれば良くないものとする経営に走りがちになります。また、雇用維持や昇進の権限をもつ経営者がその立場を利用して、古典的な性的写真・ポスター類の掲示まで至るのは論外としても、通常の感性を持つ人であればいやがるような性的言動を繰り返す人もいます。2010年代も後半には厚労省道府県労働局に寄せられた件数は全国で7万件を超え、いじめ・嫌がらせや暴行を受けたことによる精神障害の労災件数も2017年度は88件に達しました。
2019年5月に改正され、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から施行される、改正労働施策総合推進法では、上記の背景のもと、パワーハラスメントの基準を法律で定めることにより、防止措置を企業に義務化しハラスメント対策の強化を促すことになりました。またセクシュアル・ハラスメントやマタニティ・ハラスメントを防止する関連法として、男女雇用機会均等法上のセクシュアル・ハラスメント等の防止対策の強化の措置義務など、関連法の改正も合わせて行われており、企業は各ハラスメント対策を講じる必要があります。
3.各々のケースについて、どこに問題の所在があるでしょうか?
改正男女雇用機会均等法第11条の3では、「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、…その他妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること」をマタニティ・ハラスメントと定義しています。
そして、これに関連して、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(2016年厚生労働省告示第312号)があり、「制度等の利用への嫌がらせ型」の定義として、雇用する女性労働者の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるものについて、「状態への嫌がらせ型」の定義として、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるものとしています。
すると、ケース1の相談については、社長さんの発言に悪気がないとしても、あるいは当該女性従業員の方が黙って従ってくれていたとしても、これは「制度等の利用への嫌がらせ型」に該当してしまっているのです。
厚生労働省としては、ディーセントワーク、すなわち、働きがいや喜びを感じられるような仕事の推進により、権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的な仕事の実現を目指しています。この言葉は1999年の第87回国際労働機関(ILO)総会で初めて使用されたもので、誰もが①働く機会が与えられ、生計に足る収入が得られること、②労働者の権利が保障され、職場での発言が認められること、③プライベートと職業生活の両立ができ、安全な職場環境に加え雇用保険・医療などの制度が確保されること、④平等な扱いを受けること、と考えており、これらは経済発展とも両立する働き方であるととらえています。誰もに妥当することである以上、たとえその女性従業員が忍耐強い人であったからとしても、そのような方を基準としてハラスメントに該当しないとはできません。あくまで、通常の平均的な方を基準にして、その発言の当否は問題にされなければなりません。
では、ケース2の場合は「制度等の利用への嫌がらせ型」ハラスメントに該当するのでしょうか。ディーセントワークの考え方からみれば、むしろケース2の総務の方の質問は、避けて通れないと思います。上記の厚労省告示では、いずれの型のハラスメントに関する定義でも、なお書きとして、「業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントには該当しない。」とします。あとは、当該総務の方には、くれぐれも「いつまでも産休を取るつもり?」などと、業務分担にも安全配慮にも関係しないようなもの言いをしないことをお願いしておきました。
4.職場における事業主の講ずべき措置について
さて、改正労働施策総合推進法では、特にパワーハラスメントについて、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義し、事業主にはこのようなことがないように、「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めました(30条の2第1項)。
改正法及び厚生労働省ガイドラインでは、①事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること、②相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること、③相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること、④相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること、⑤業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること、事業主はこれらを業種・規模に関わらずすべての事業主に義務付けられています。
まだ中小企業では、この事業主の講ずべき措置について、業種・規模により試行錯誤の状態にあるといえます。弁護士は、企業内における相談窓口の構築や対応について、いつでも協力することができます。例えば日本弁護士連合会では「ひまわりほっとダイヤル」を設置していて、「0570-001-240」にお電話頂けると、地域の弁護士会の専用窓口に繋がり、弁護士からの折り返しの電話で弁護士との面談予約・相談ができるようになっています。
解説者
弁護士法人横田法律事務所 代表社員 弁護士 横田亮
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