改正著作権法(第2回)-他人事ではすまされない!著作権の落とし穴
2019年11月18日
- 解説者
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弁護士 橋本阿友子
第1回で、平成30年に著作権法が改正され、著作物を利用できる範囲が広がったと説明しました。これはユーザにとっては喜ばしい内容です。一方で、著作権侵害に対する制裁は厳しくなる傾向にあります。第2回では、会社の運営に関して陥り易い著作権侵害の例を紹介したいと思います。
1.インターネット上での著作権の落とし穴
(1)ウェブサイト・SNSの広告で著作物を使いたい
会社のホームページやFacebookページでは、社長挨拶、社屋の写真や動画を掲載することが多いかと思います。ここで注意すべきは、他人の著作物を勝手に使ってはならないということです。例えば、別の企業の社長の挨拶文をコピー・ペーストしたり、GoogleやYahoo!の画像検索で見つけた写真を無断で掲載する行為は、著作権の侵害になり得ます。
それならネット上のフリー素材を使用したらいいのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。実は、ここに落とし穴があります。フリーサイトから入手した写真を利用した結果、20万円の損害賠償の支払いを命じられた判例があるのです。
被告はあるフリーサイトから写真を入手し、被告ウェブサイトに掲載したのですが、その写真が実は著作権フリーではなかったために著作権者から損害賠償を請求されたという事案です。裁判所はフリーサイトから取得したので著作権フリーだと信じていた、という主張を認めませんでした。
同様に、Yahoo!の画像検索結果から写真をダウンロードしたケースについて著作権侵害を認めた判例もあり、著作権者が不明なネット上の写真やそれ以外のコンテンツを無断で使用することは、お薦めできかねます(人が写った写真の使用は、著作権とは別に肖像権(本人の許可なく自分の顔や姿態を撮影、公表されない権利)や個人情報保護法(生存する個人が特定される情報を保護する法律)の問題も生じ得る点にも注意が必要です)。
(2)ウェブサイト・SNSの広告でリンクを張りたい
一方、他人のホームページにリンクを張ることは、実は著作権法上はあまり問題にはならないと考えられます。他サイトにリンクを張っても、公衆送信や複製が行われるわけではなく、著作権者の権利と抵触しないからです。もっとも、リンクを張ることが常に法律違反とならないというわけではなく、場合によっては著作権侵害になり得ると述べた判例はあります。この判例によれば、リンク先のコンテンツが違法にアップロードされたことが明らかな(あるいは違法にアップロードされたことを知ってリンクを張っていた)場合や、抗議を受けたのに削除せず蔵置し続けたという場合は、著作権侵害になり得ると考えられます。
(3)ネットで商品を販売したい
ネットで商品を販売する際に注意したいのは、ロゴです。
ロゴは、特に文字フォントのみでは著作物ではないと考えられ著作権の保護を受けない場合も多いと思います。もっとも、ロゴではありませんが、下記のシールの絵柄も著作物と認められていることから、イラスト入りのロゴは著作物と判断される場合もあり得ると思います。
ロゴが著作物といえそうな場合には、そのロゴを複製したり、ネットにアップしたりすることが著作権侵害になる可能性があります。また、イラストレーターに依頼してロゴを作成する場合などは、ロゴの著作権はそのイラストレーター(またはそのイラストレーターが所属する会社)にあると考えられるので、自社で自由にロゴを使用したい場合には、著作権の譲渡を受けることがのぞましいでしょう。
また、ロゴは、商標登録されている場合が多く、登録商標は商標権で保護されます。商標登録されている他人のロゴを、自社製品があたかもその他人の商品であると消費者に混同を与えるような方法で使用すると、商標権侵害になる可能性があります。
2.著作物を利用する方法
(1)著作権者の探知
他人の著作物を利用するには、原則として著作権者の許諾が必要となります。許諾を得るには、著作権の譲渡をうけるか、ライセンス付与をうける方法がありますが、これらの譲渡とライセンスについては、第1回でご説明しました。
しかし、この第1回で取り上げた譲渡やライセンスの交渉や合意事項の検討は、既に著作権者と連絡がとれている段階の問題です。現実には、著作権者が誰かわからない、所在がわからないという場合が結構あるのです。
そのような場合には、文化庁の裁定制度を検討してみてはいかがでしょうか。裁定制度とは、権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け,使用料額に相当する補償金を供託することで、著作物を適法に利用できる制度です。
裁定制度を利用する場合でも、申請に先立ち権利者の情報(住所や電話番号・メールアドレス・著作権継承者の氏名)を収集し、その権利者情報に基づいて権利者と連絡するための措置をとることが求められるなど、実際にはハードルの高い制度ではありますが、試してみる価値はあると思います。
(2)知らないと損をするインターネット上の利用条件
とはいえ、ネットで誰もが簡単にアクセスできる形で情報を提供できるこの時代、これまで以上に利用の需要があるでしょうし、利用してほしい権利者もいるはずです。しかし、利用者がネット上の各コンテンツにつき真の権利者を探索し、利用許諾を得るのは既述のとおり困難です。
そこで、有効なのはCCライセンスです。CCライセンスは「インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が『この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。』という意思表示をするためのツール」として提供されています。自分の作品を利用してもらいたい場合は、希望の条件に沿うCCライセンスを付すことで利用を促すことができます。CCライセンスをみれば利用条件が簡単にわかるため、ユーザにとっても利用しやすいシステムです。ご参考までに、弊所のウェブサイトで公開しているコラムも、CCライセンスで提供しています。
3.著作権を侵害したらどうなる?
(1)民事上の責任
著作権を侵害した場合、著作権者から侵害の差止め、損害賠償、不当利得の返還、名誉回復措置などを請求される可能性があります。特に差止めについては、①侵害行為をする者に対するその行為の停止の請求、②侵害の恐れのある行為をする者に対する侵害の予防の請求、③侵害行為を組成した物、侵害行為によって作成された物またはもっぱら侵害の行為に供された機械や器具の廃棄その他の侵害の停止・予防に必要な措置の請求が可能です(③は①又は②と共に請求されるものです)。差止め請求の際には、侵害者に侵害についての故意や過失があることは要件ではないので、請求された者への影響は大きいと思われます。
(2)著作権侵害は刑事罰の対象
さらに、著作権侵害には刑事罰が科されることがあります。
著作権法では権利侵害罪として10年以下の懲役と1,000万円以下の罰金のいずれか、またはその双方を科すという罰則が設けられています。侵害者が法人の場合には、3億円以下の罰金刑が科せられます。さらに、著作権侵害以外の場合にも罰則があり、私的使用目的であっても、無断でアップロードされていることを知っていて、かつダウンロードする著作物等が有償で提供・提示されていることを知っていた場合、そのサイトから自動公衆送信でデジタル録音・録画を行うと、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金が科せられます。なお、「懲役刑」と「罰金刑」は併科されることがあります。
刑事罰の対象となると、警察の捜査がなされます。捜査の対象となると、パソコンの押収等、会社の運営に多大な影響を及ぼしかねません。これまでに、著作権侵害罪に関しては、Winny事件、ハイスコアガール事件といった、著作権業界を震撼させた刑事事件がありました。Winny事件では、ファイル共有ソフトの開発が当該ソフトを違法に利用した利用者の行為の幇助にあたるとして、開発者が起訴されましたが、最終的には無罪が言い渡されています。ハイスコアガール事件では、海賊版などの悪質とは言い難い著作権侵害に対して会社の中の捜索がなされ、警察の過剰な介入が問題視されました。
(3)著作権侵害罪の厳罰化傾向
著作権法は、刑事罰については厳罰化の傾向にあります。2010年にはインターネット配信による音楽・映像を違法と知りながらダウンロードすることを違法とし、2012年には2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金の対象としました(既述)。
また、漫画・雑誌・写真集・文芸書・専門書を含む幅広い分野の著作物について海賊版サイトによる被害が報告されています。このようなインターネット上の著作権侵害の深刻化を受け、現時点では音楽・映像等の録音・録画に限定されているダウンロード違法化について、対象範囲の見直しが検討されています。
4.著作権侵害の非親告罪化
著作権侵害に対する罪は、従前、著作権者の告訴がなければ起訴されない犯罪(親告罪といいます)でした。そのため、著作権者が刑罰を欲さない場合には、侵害者は処罰を免れていました。しかし、平成30年の著作権法改正では、著作権等侵害罪のうち法律が定める下記の要件を満たすものを非親告罪とし,著作権等の告訴がなくとも起訴されることになりました。
- 対価を得る目的または権利者の利益を害する目的があること
- 有償著作物等(有償で公衆に提供され、又は提示されているもの)を原作のまま譲渡・公衆送信またはこれらの目的のために複製すること
- 有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害されること
コミックマーケットにおける同人誌等の二次創作活動は非親告罪にならないと考えられますが、漫画や小説、映画の海賊版を販売する行為については非親告罪となる可能性があります。非親告罪の対象は限定されていますので、ビジネスを過度に萎縮する必要はないように思いますが、注意は必要です。
5.まとめ
みなさんの身の回りで著作権侵害になりそうな事例はありませんか?特にSNSなど気軽に利用できるツールでは、うっかり他人の著作権を侵害してしまいかねません。
本コラムが適正に著作物を利用する手引きになれば幸いです。
解説者
事務所:骨董通り法律事務所
資格:弁護士
氏名:橋本阿友子