改正著作権法(第1回)-経営者が知っておきたい著作権ビジネス

2019年11月11日

解説者

弁護士 橋本阿友子

近年のデジタル化・ネットワーク化によって、誰もが簡単にSNSで写真を公開し、YouTube等で動画を配信できるようになり、GoogleやFacebookのようなプラットフォーマーが世界市場を席巻するなど、著作物を取り巻く環境はここ数年で著しく変化しました。この潮流を受け、平成30年に著作権法が改正され、平成31年1月1日より施行されています。本稿では、著作権法に関する最新情報にも触れつつ、ビジネスに関連する著作権法の概要をお届けいたします。

1.著作権とは?

(1)著作権は禁止権?

最近にわかにニュースを騒がせている「著作権」。一体どのような権利なのでしょうか?

著作権とは、著作物(創作的に表現されたもの)に生じる財産的権利で、複製権(コピーする権利)、公衆送信権(インターネットにアップロードする権利や放送する権利)、翻案権等(翻訳、編曲、翻案等改変を行う権利)などの一つ一つの権利の総称です(公益社団法人著作権情報センター(CRIC)のウェブサイト参照)。

例えば、AがイラストXを描いたとします。この場合、AはXの「著作者」で、かつ「著作権者」です。Xを利用する権利はAに帰属します。原則としてAだけがXを利用することができ、BがXを勝手にコピーしたり、SNSにアップすることはできません。このように、著作権は、排他的利用権といえます。また、他人に行為を禁止する側面をとらえて、禁止権と称されることもあります。

もっとも、著作権が譲渡された場合は別です。上の例で、AがXの著作権をBに譲渡した場合、「著作者」はAのままですが、Bが「著作権者」となります。原則として、AはXをBに無断でコピーしたり、インターネットにアップしたりすることはできなくなります。第三者Cも、Bに無断で利用することはできません。(もっともAは「著作者」なので、「著作者人格権」を有し、XがAの作品であると表示することを求めたり、Aの意に反してイラストXを改変しないよう求めることができます。)

(2)著作物を自由に利用できる場合も

もっとも、いかなる場合にも第三者の著作物の無許諾利用が許されないわけではありません。著作物が保護を受ける期間(保護期間)は永久ではなく、保護期間を満了した著作物は、原則として誰でも自由に利用できます(パブリック・ドメイン(PD))。保護期間は、この度の改正で、著作者の死後(又は公表後)50年から70年に延長されました。例えばAが2020年に死亡した場合、イラストXは2090年末まで保護され、2091年1月1日からPDとなります。

また、著作権法は権利制限規定と呼ばれる、著作権者の許諾なく著作物を利用できる場合を規定しています。たとえば、購入したCDを自分が聴くためにiTunes上にダウンロードしたり、無料のコンサートで報酬をもらわずに他人の楽曲を演奏するなど、許諾が不要な場合があります。

2.著作権と所有権との違い

Aが、XをBに売却したとしましょう。BはXを自由に利用できるのでしょうか?

著作権と紛らわしいのが所有権です。著作権は著作物の利用権、所有権は物を自由に使用・収益・処分する権利をいい、異なる権利です。BはXを高額で販売して利益を得たり、廃棄もできますが、勝手にXをモノクロにしたりXの写真をSNSにアップすることはできません。

例えば、Dが、Bを、Bの自宅で、壁に飾られていたXと並べて撮影し、雑誌に掲載したとしましょう。Dは、絵画も一緒に撮影されることについて、Bの許諾を得ていました。一見、何ら問題がなさそうです。しかし、Bは写真の所有者ですが、(Aから著作権を譲り受けていない限り)著作権者ではありません。この場合、A(著作権者)は、自身の絵画が許諾なく撮影され雑誌に掲載されたことについて、著作権(複製権)侵害を主張できると考えられます。実際、似たような事例で侵害が認められた判例があります。

このように、著作物の利用にあたっては、所有者の許諾があっても、著作権者の許諾がなければ著作権侵害になり得ます。所有者の許諾があれば安心とは限らないことに注意が必要です。

3.著作権の譲渡・ライセンス

(1)著作権は譲渡・ライセンスできる

2.の例で、BはXをSNSでアップしたいと考えています。これを適法に行うにはどうすればよいでしょうか?

SNSでアップロードする行為は公衆送信にあたりますので、原則としてAの許諾が必要となります(アップロードする前提として写真を撮影しPC上にデータをとりこむ行為は複製権の侵害にもなります)。そのため、まずはAから許諾(=ライセンス)を受けることが考えられます。また、著作権を譲り受ける方法もあります。 譲渡契約・ライセンス契約は、口頭でも成立します。しかし、筆者としては、後に起こりうる“言った・言わないトラブル“を避けるためにも契約書を交わすことをお薦めします。契約書まではいかなくとも、どのような利用が可能かわかるよう書面の形で残すことが重要です。

(2)譲渡の際の注意点:翻案権

ライセンス契約又は譲渡契約では、対価、譲渡対象(著作権のうち、どの権利をライセンスor譲渡するか)、譲渡の条件等を契約書に明記することが重要です。また、少し細かいですが、著作権のうち翻案権等と、翻案されて創作された著作物について生じる権利については、特掲されていなければ譲渡されていないものと推定されています。これは著作者側(譲渡する側)を保護する趣旨で、これら2つの重要な著作権については、書面で明確に合意しなければ、著作者の元に残ると推定されるのです(なお、「推定」とは、反証がない限りそれが事実であるものとして扱われるという意味で、反証があれば譲渡が認められることがあります。たとえば、特掲されていなくても契約内容から翻案権等の譲渡が明らかな場合には、推定が覆され、譲渡が認められることがあります)。そのため、これらの権利を譲渡する場合には特に、契約書を交わすことが重要になります。

4.会社の著作物を活用しよう

(1)会社に眠る著作物

著作物は、プロのアーティストだけから生みだされるものとは限りません。あなたの会社にも著作物が隠れているかもしれません(もっとも、著作物とは「創作的に表現されたもの」をいいますので、以下の例が著作物といえるかはケースバイケースです)。

  • 会社ホームページ・パンフレット(画面デザイン・表紙デザイン・イラスト・文章)
  • 企画書、設計書、図面、マニュアル
  • 音楽・映像・イラスト・データベース
  • 社員の成果物(職務著作になる場合)(イラスト・デザイン・音楽)
  • 二次的著作物(画像トリミング・変色・編集、音楽のカット)

著作物を譲渡・ライセンスする場合は、3.で述べたとおり、契約書を交わすことが重要です。契約書作成過程においては、交渉力が契約書の内容に大きく影響します。著作権を譲渡する場合にはそれ相応の対価を設定する、自社も利用したい著作物であればライセンス契約には自社の利用も可能とするような条項を明記するなどの点に留意して、交渉にのぞむとよいでしょう。

著作物は知的「財産」ですので、その管理も重要です。あなたの会社の著作物は、第三者に勝手に利用されたりしていませんか?著作権侵害に基づく差止め、損害賠償を求めることを検討すべき場合もあるでしょう。

(2)オープン&クローズ戦略

一方で、会社の宣伝目的等で、著作物をあえて利用させるという戦略もあります。例えば、任天堂は昨年、同社のゲームからキャプチャーした映像やスクリーンショットを利用した動画や静止画等の動画共有サイトへの投稿を認めました。任天堂としては、プレイ画面等をインターネット上にアップロードする行為に対し著作権侵害だと主張できるのですが、むしろこれを許容しプレイ動画が共有されることで、ゲームソフトの売上げが上がることが期待できそうです。これは、知的財産のオープン&クローズ戦略(自社が有する知的財産を、公開して第三者の利用を認めるもの(オープン)と自社が独占するもの(クローズ)に分類し、使い分ける戦略。オープンにすることでかえって自社の利益につながる場合があることが前提とされている。)の一つといえるのではないでしょうか(オープン&クローズ戦略については筆者のコラムもご参照ください)。

5.AI開発への法規制はどう変わった?-機械学習パラダイスの国、日本

(1)平成30年著作権法改正

近年、IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)などを活用し著作物を含む大量の情報の集積・組合せ・解析を使ったイノベーションが期待されるようになり、これらの技術開発が著作権法上違法とされ阻害されることが危惧されてきました。このような背景から、著作物の利用を広く認める方向での著作権法制度改訂の要請があり、平成30年に著作権法が改正されました。

この改正によって、権利制限規定が追加され、著作物を例外的に無許諾で利用できる範囲が広がりました。

(2)改正の具体的内容

具体的には、ディープラーニング(機械学習)、解析用データセットの作成提供&共有、所在検索サービス(Google Booksのような書籍検索サービス、曲名検索サービスなど)、情報解析サービスなどにおける著作物の利用が、無許諾で可能となりました。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は許されないことに注意が必要です。

著作権者の利益を害する場合とは、著作権者の市場と競合するような著作物の利用をいうと考えられ、利用によって著作権者の著作物の売上げが下がるなどの影響がある場合には、原則に戻り著作権者の許諾が必要と考えられます。たとえば、人を感動させるような映像表現の技術開発目的名目で一般に公開する形で映像の試験上映会を行う場合、客観的には視聴者がその上映を通じて映像の表現を楽しむことができるので、上映によって得られる利益を吸い上げてしまいかねません。そのため、このような場合には原則に戻って、当該映像の著作権者の許諾が必要となると考えられます。

解説者

事務所:骨董通り法律事務所
資格:弁護士
氏名:橋本阿友子