起業の先人に学ぶ(2020年版)
10年着続けられる服で、着る人も作る人も豊かに【株式会社10YC】
1.ビジネスの特徴
- ●誰に
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着心地や品質の良い服を長く着続けたいという顧客に。
- ●何を
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日本の工場で作られたシンプルなデザインのシャツやパーカーを。
- ●どのように
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自社ECサイトやポップアップ・ストアで直販している。
創業メンバーは大手アパレルを退社して起業した下田社長と、プロダクト担当、アシスタントの3人で、全員28歳。製造委託先の工場と直接取引し、従来の中間マージンを省いて原価を上代(定価)の50%近くに設定。工場に適切な工賃を払って利益を還元することでエシカルかつ持続可能なものづくりを目指している。
2.起業のきっかけ
大手アパレル会社で生産管理に携わっていた頃、一緒に住んでいた友人が買ったばかりのTシャツを洗ったら1回でよれよれになった。それで安価な商品を大量生産・消費し、売れ残ると処分しているアパレル業界の現状に気づいた。自分は気に入ったものをずっと着続けていたい。耐久性があって着心地が良く、ほつれたら繕い、色褪せたら染め直して何年も着られる服なら頻繁に買い替える必要はない。10年着続けられる服を自分たちで作ってみようと思った。社名の10YC(10Years Clothing)はこれが由来だ。
3.起業への道のり
2017年8月に退社し、紡績、縫製、染色など全国の工場を見て回りつつ、クラウドファンディングで資金を集める。事務所は東京都東村山市の自宅兼用だったが、墨田区の創業支援セミナーで同区内の縫製工場と出会い、作り手の近くにいた方がいいと近所に事務所兼店舗を構える。区の創業融資も受け、同年9月に創業。製品はTシャツやパーカーなどユニセックスで主力商品のサイズはSからXL。イメージをパターンナーに伝え、生地を選び、丁寧な縫製を施し、襟の内側にブランドタグを付けないなど、着心地と耐久性にこだわって作った。だが、当初は知名度が低く販売は低迷、従業員の給与が払えず、ちゃんと出せるようになったのは2年目に入ってからだった。
4.最初のお客さんを獲得するまで
17年11月に自社ECサイトを開設。最初のお客は友人で、販売を始めてすぐだった。広告宣伝費はほとんどかけていないが、買ってくれた人がインスタグラムに上げてくれたり、メディアの取材が入ったりして、顧客数が徐々に増えた。ユーザーはのべ数千人いると思う。顧客は30代が多く、いくら品質が良いものでもパーカー1枚に3万円だと受け入れてもらえない。1万6800円とお客さんが背伸びをすれば手が届く範囲に値段を設定するのが難しい。18年から全国各地でポップアップ・ストアも始めたが、一度服を買ってくれた人がそれを着てまた別の服を買いに来てくれるのがうれしい。
5.今後の展開
10YCは実店舗がないため家賃や人件費がかからない。その分、原価率を上げられるので粗利益率(売り上げ総利益)を全体の40~50%に設定して適切な工賃を工場に支払っている。10YCは製造業ではなく、作り手と着る人をつなぐ中間業者でしかない。10YCの服のコストパフォーマンスや背後にあるストーリーに共感して買ってくれるユーザーが根付いて、10YCとの取引で工場の従業員さんの給料が上がるとか、新卒採用ができるとか、作り手が豊かになれば、10YCも一緒に伸びていける。企業ってそういうことなんじゃないかな。だから、無理をせず少しずつユーザーを増やしていければいい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社10YC(テンワイシー)
- Webサイト
- 設立
- 2017年9月
- 従業員数
- 3人
- 代表者
- 下田 将太 氏
- 所在地
- 〒130-0011 東京都墨田区石原3-30-11
- 問い合わせ
- info@10yc.co.jp