起業の先人に学ぶ(2018年版)
「(株)鳥貴族」全品均一価格を謳う業態はどうして成功したのか?
若者からシニアまで多くのお客様を集め、大繁盛の成功チェーンとなった鳥貴族。創業者であり現社長の大倉忠司氏に、創業時からこれからのことまで、成功の秘密を聞いた。
株式会社鳥貴族 代表取締役社長 大倉 忠司氏
URL:https://www.torikizoku.co.jp/
高校のアルバイトで外食の楽しさを経験
—— 鳥貴族の業態の特徴を教えて頂けますか?
鳥貴族は、1985年に大阪で創業して今年33年目になります。今現在、関西・東海・関東で約600店舗を展開する焼鳥専門店です。大きな特徴は、全品298円(税抜)均一であるという点です。低価格・高価値をモットーとしています。お客様は20代~30代の方を中心で男性6:女性4ですが、シニアの方々にも大勢利用いただいています。
—— 今、店舗数が600店舗を超えてきたなかで、展開するブランドは鳥貴族だけなのですが、単一ブランドで展開しているのには何か理由があるのでしょうか?
チェーン展開をして成長していく際に、リスクヘッジができるなら一業態の方が資本を効率よく投入できます。今後の計画でも、他の業態に取り組む予定はありません。
—— 大倉社長のことをお聞きしたいのですが、ご出身は大阪ですね。
はい。大阪府東大阪市です。
—— 元々、飲食業をやろうと思ったきっかけは?
高校の時に初めてアルバイトをしたのが飲食店でした。高2、高3の時にビアガーデンでアルバイトをした時が大変楽しく、「この飲食業界に進んだら自分は楽しい人生を送れそうだな」と思い、決めました。
—— 楽しかった要因は何だったのでしょうか?
ホールでのお客様との会話が楽しかったですし、お酒を飲んでいるお客様が本当に楽しそうでした。「そういう場に自分がいる」ということがまた楽しかったんですね。
—— 店長さんやオーナーさんとの関係はいかがでしたか。
ビアガーデンでは、店長に認めてもらえたのが嬉しかったですね。1年目はホールで仕事をしていましたが、翌年「大倉、お前はしっかりしているから」と、焼き鳥の担当を任されました。この時に焼き鳥の担当をしたのが楽しくて鳥貴族をやったわけではないのですが(笑)。
もともとは洋食をやりたかったのに、ひょんなことから焼き鳥店に転職。
—— 高校卒業後は、調理師専門学校へ進学されました。将来、飲食業に進もうと思ったからですね。
そうです。両親に「将来、自分は飲食業界に行きたいので、調理師の学校に進みたい」と相談したところ快く承諾してくれましたので、調理師免許を取って就職することにしました。
—— コックを目指されたということですか?
必ずしもコックではなくても、飲食業界に進むにあたり、将来のためにいろいろな料理を覚えておこうという考えでした。
—— 専門学校卒業後は、イタリアン・レストランに就職されたのですね。
学校の斡旋で、大阪のシティホテル内で営業していたイタリアンレストランに就職しました。3年ほど勤務していました。
—— 3年後に独立ですか?
それが違いまして。イタリアンレストランに勤めていた当時、自宅の近所に焼き鳥のチェーン店ができまして、よく通うようになりました。自然と店長とも仲良くなりました。ある時、その店長がそこから独立して焼き鳥店を開業しました。私はその店にも通い続けていたのですが、「店を手伝ってほしい」と言われたのです。手伝いをしているうちに気に入られまして、「お前、仕事できるな。うちへ来いよ」と誘われました。ただ、私はイタリアンレストランで働いていたので、どちらかというと「洋食」の方へ気持ちが傾いていまして、すぐにはOKしなかったんです。
—— その後も誘われたでしょうか?
半年間ずっと誘われ続けました(笑)。ある日、その店長から次のように言われました。「実は、俺はどんどん店を出して大きなチェーンを作りたい。大倉君にはその片腕になってほしい」と。私はその夢に惚れてしまいまして、焼き鳥店へ転職することにしました。
—— 転職をされて、その焼き鳥店にはどれくらいいたのでしょうか。
店長のもとで3年くらい働かせてもらいました。社内ではナンバー2のポジションで、7店舗まで展開したのですが、その頃から自分で焼き鳥店をやりたくなったのです。私が25歳になる前に、店長に独立したい旨を告げました。
独立一号店は赤字続き。それを救ったのは「均一価格メニュー」
—— そうして独立して第一号店を出店したのが、1985年ですね。
そうです。東大阪の近鉄俊徳道(しゅんとくみち)駅の近くでした。当時は成功するイメージしかありませんでした。その頃に結婚もしまして、一号店のオープン2週間後に子どもが生まれました。そのような状況なら普通は安定を求めるところでしょうが、当時の私はそんな考えは全くなかったんですよ。
—— では、一号店目はうまく立ち上がって?
いいえ(笑)。1年間、お客さんが来なくて赤字が続きました。これではマズイということで取り入れたのが「均一価格」です。当時は250円均一にしました。メニューを変えたところお客さんが多く集まるようになり、売上が安定しました。2号店目は居酒屋を開業しました。
—— 焼き鳥店ではなく?
そうです。当時ちょうど居酒屋ブームがありまして、開店当初から好調でした。翌年、3号店目も同じ居酒屋を大阪・玉造(たまつくり)にオープンさせました。しかし、こちらは立地選定が悪かったこともありダメでした。その間に鳥貴族1号店の売上がどんどんあがっていましたので、2年後には鳥貴族2号店を出店しました。鳥貴族3号店を出すころには、オープン当初から大変好調な売上でした。1号店、2号店、3号店と進めるに従い、売上も好調になっていったんですね。それで、「じゃあ全て鳥貴族で行こう」と考え、当時2店舗あった居酒屋も全て鳥貴族に変えて、その後は鳥貴族一本でやってきました。
—— 成功要因は均一価格とのことですが、均一価格にしようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?
また似たような話なのですが、自宅の近所に、独立する前からよく通っていた個人店の炉端焼き屋がありました。その店は全品均一価格で繁盛していまして、客の立場から見ても面白いなと思っていました。まだ百円均一ショップが登場する前のことです。安いうえに全品同じ価格、自分もこれをどこかでやれたらいいなと思い、このアイデアをずっと温めていました。そして、鳥貴族1号店の赤字が続いているときに、状況を打破するために「今やろう!」と決めたんです。
フランチャイズチェーンとは違うカムレードチェーン
—— 鳥貴族さんのもう一つの特徴として、カムレードチェーンという特徴があります。これはどのようなものでしょうか?
イメージとしてはフランチャイズチェーンのようなものですが、フランチャイズと違うのは、一般の加盟希望者はお断りしているという点です。基本的には社員が独立して加盟する形を取っています。その理由として、チェーンにどんどん外部の方を入れると血が薄まるような気がしたのです。「儲かりそうだからこれをやりたい」と言われる方に、鳥貴族の理念や考え方を一から理解してもらうには相当なエネルギーが要ります。時間もかかりますしね。それなら、既存のオーナーさんだけでやりたいと思い、「同志」を意味する「カムレード」という言葉を付けたチェーンの考えに至りました。5号店目が独立して加盟店になった、というのが最初です。
—— 今、鳥貴族は600店舗ほどありますが、加盟されている方はどれくらいいらっしゃいますか?
15社です。600店舗のうち6割が直営店で、残りの4割をカムレードチェーン加盟店が占めています。各社平均して10店舗以上を運営しています。ちなみに、最大の加盟店は70店舗超を運営しています。私達としては、当初から多店舗展開をして欲しいという想いがありました。そのため、加盟金やロイヤリティは低く抑えています。なるべく負担を減らしていますから、多店舗展開しやすいビジネスモデルだと思っています。
298円均一価格はどこまで行けるか?
—— 今現在、税抜298円均一でいらっしゃいますが、どのくらいまで298円均一でやっていけると思っていらっしゃいますか?
なんとも言えませんが、先進国に比べると今の日本の物価は安すぎると思いますね。今後、どこかでインフレや賃金上昇があり、他の先進国に並ぶようになっていくかもしれませんが、今のところはこの価格でやれるところまでやっていきたいと思っています。
—— 鳥貴族さんの成功を見て、似たような業態も出てきています。他社の動きは意識されますか?
意識していません。そのような店には行ったこともありません。店に行って意識すると、対抗策を取ろうとしてしまうでしょう? そうではなくて「鳥貴族はこうあるべき。この方向に進んでいく」というのをしっかり持って、そこだけを堅実にやっていくというのが私達のやり方なのです。
—— 均一価格を維持するために必要なコストコントロールで工夫している点は?
一番はスケールメリットですね。低価格を維持しながら、高価値の商品を提供するのが今までの戦略でした。バイイングパワーは重要です。あとは効率化ですね。飲食業界の生産性は遅れていますので、自動化できるところは積極的に進めていきます。洗い場などはロボットがやるなどして、これまで以上に自動化しなければ働く人は幸せになりません。生産性を上げる工夫はしていきたいですね。
—— とはいえ、鳥貴族はセントラルキッチンを持たず、食材は全て店舗で調理しています。これは鳥貴族のこだわりとして譲れない部分ですか?
そうですね。鳥貴族は焼鳥専門店ですから、焼き鳥の美味しさで他社に負けるわけにはいきません。美味しい焼き鳥を提供するためには、店舗での串打ちが一番なんです。ここはこだわり続けたいですね。
—— 2021年7月期に1,000店舗を目指される、という記事を拝見しました。達成はできそうでしょうか?
それは達成できると確信しています。また、1000店舗達成後の展開は国内・国外、両方を考えています。日本国内では、地方都市にも今度出店していくことで、全国2,000店舗を目指していきます。海外は、欧米進出を考えています。外食市場が成熟していてマーケットの大きいところへ行きたいですね。