起業の先人に学ぶ
「合同会社みらい」虐待予防プログラムで、幸せな家庭を増やしたい
子どもの心の成長は、乳幼児期にどんな風に育てられたかが大きく影響するという。山田裕子さんは、乳幼児を抱えた親が安心して育児ができる環境作りを進めるべく、LLCみらいを設立した。米国で導入が進む訪問型の育児支援プログラムを日本でも普及させることで、虐待予防をめざす。
合同会社みらい 代表社員 山田裕子(やまだ・ひろこ)
昭和27年7月生まれ。兵庫県出身。関西学院大学大学院修士課程修了後、住友病院診療内科でケースワーカーとして、8年間勤務。退職後、7年間専業主婦として2人の娘を育てる。 その後、京都保育福祉専門学院で11年、保育士養成に携わった後、2009年3月にLLCみらいを設立。
心の子育て支援をめざして起業
——御社の事業の概要を教えてください。
子育てをする親や保育所や乳児院、児童養護施設などの児童福祉施設の職員など、子どもに関係する仕事に携わる専門職を対象に、虐待の予防や愛着障害の改善など、「心の子育て」に関する講演や研修を行っています。
——2009年に会社を設立されたそうですが、起業される前は何をされていたのでしょう?
大学院卒業後、病院の心療内科でケースワーカーとして8年勤務した後、7年間、専業主婦として2人の娘の子育てに専念しました。娘たちに手がかからなくなってからは、非常勤講師を経て、専門学校で保育士の育成に11年間携わりました。
——専門学校の教師という安定した職を離れ、なぜ、起業の道を選ばれたのですか?
学生時代からずっと子どものメンタルヘルスのことを勉強してきて、虐待の早期介入、予防的関わりの必要性を実感しており、保育士の育成でも、虐待予防についての教育には力を入れてきました。しかし、ニュースなどで、若者の起こす問題行動や、悲惨な事件などの報道を見るにつけ、もっと直接子どもに関わっている人達に愛着障害の事や児童虐待の事や予防の重要性を伝えたいとの思いから、起業を決めたのです。
ただ、退職はしたものの、具体的に何をすればいいのかわかりませんでした。そんなとき、たまたま、京都大学経営管理大学院が主催する「女性起業家プログラム」の存在を知り、急いで応募しました。この講座は、週末の合宿を6回行う3カ月のコースで、アイディアの創出方法から、管理会計やマーケティングなどの実務までを学ぶことができました。
過去に築いた人脈を活かし、営業を展開
——起業の資金などは、どう調達されたのですか?
銀行などの融資を受ける方法もありましたが、返済の苦労を考えると、負担感があったので、退職金など、自己資金を充てました。でも、封筒や名刺を作ったり、HPを開設したりと、準備に思った以上に費用がかかり、資金もあっという間になくなりましたね(苦笑)。
——講演や研修を行うための営業活動は、どのように行っているのですか?
専門学校に勤務していたころに、生徒の実習でお付き合いのあった乳児院や養護施設の施設長先生などに声をかけたり、対象となるような人たちがいる組織や施設(児童相談所や児童福祉施設)に対し、DMを送るなどしています。ただ、これまでは、チラシ作りなどに手間がかかり、あまり営業に時間をかけることができなかったので、今後は、もう少し、営業活動に時間を割く必要があると思っています。
——起業から2年ですが、これまでの成果はどうですか?
福祉の世界は、高い専門知識や経験があっても、なかなかそれが報酬に結び付いておらず、勉強したくても、費用がかかる講演や研修には、なかなか参加できないというのが現状です。したがって、集客には苦労しています。ただ、個人で研修に参加した人の紹介などで、職員の集合研修を受注したりなど、徐々に顧客は増えています。
企業の子育て支援・次世代育成を支援したい
——事業を展開するうえで、大変だと思われることはありますか?
資金繰りですね。先ほども申し上げたように、福祉はビジネスにはなりにくいという面があります。そうした点も考慮して、起業から3年は、投資の期間と考えていますが、それでも、やりくりは大変ですね。
——逆によかったことは、ありますか?
いろんな人に会えることですね。勤めていただけでは出会えなかったような人にも出会え、世界が広がりました。また、米国の先生に来て頂いて、愛着の修復、修復的体着療法の合宿研修を開催したところ、参加した人たちの中からその勉強会をしてほしいという声が上がり、現在2カ月ごとに自主勉強会が大阪、名古屋、東京で実施されていて、自分が必要だと思って取り組んだことが徐々に広がり、実を結んで行っていることは、本当にうれしいですね。
——今後の事業展望を教えてください。
アメリカで実践されている、虐待予防に効果的なプログラム、ヘルシースタートを普及させていくために、今年4月から「家庭訪問型子育て支援ソーシャルワーカーの養成」を始めます。まず、そのプログラムを実践出来る人を養成、そして家庭訪問ワーカーのスーパービジョンができる人を育てる必要があります。まずはプログラムの衆知と質の高いワーカーさんの養成を始めなければなりません。
また、企業向けの子育て支援研修もPRしていきたいと思っています。個人負担ではなかなか利用できない子育て支援策も、企業が従業員の福利厚生の一環として、費用を負担すれば、従業員も利用しやすくなります。家庭に心配ごとを抱えたままでは仕事にも集中できませんし、次世代育成の観点からも、ぜひ、多くの企業に導入してもらいたいと思っています。
企業データ
- 企業名
- 合同会社みらい
- 設立
- 2009年3月
- 所在地
- 〒530-0041 大阪市北区天神橋3-1-34-203
- Tel
- 06-6358-8816
掲載日:2011年10月25日