起業の先人に学ぶ

7つの事業で7つの海を渡りたい【株式会社SEVEN SEAS】

フリーター歴が長いとなかなか正規の仕事に就けないと言われるが、10年間アルバイトと海外放浪を繰り返した後、会社員を経て経営者になった人もある。大阪市の下町、天満でワインバー「luv wine(ラブワイン)」を経営するSEVEN SEASの東口浩二社長だ。

株式会社SEVEN SEAS 代表取締役社長 東口浩二(ひがしぐち・こうじ)
1971年2月生まれ。奈良県出身。高校卒業後就職した本田技研を1年あまりで退社。海外の放浪とアルバイトを繰り返した後、28歳で英語研修の会社に営業マンとして就職。8年ほど勤務した後退職し、06年7月SEVEN SEAS を設立。同年10月、ワインバー「luv wine」を開業。

"大阪一敷居が低い"ワインバー

「カナダ人の友人が”loveよりluvと表示した方がカッコイイ”というのでluv wineとしたが、”なんて読むの?””と聞かれることが多くて困った」という東口浩二社長

——2006年10月に開業した「luv wine」について教えてください。

「luv wine」は、高級ワインがグラス1杯600円~1800円で飲めるテイスティング感覚のワインバーです。大阪市の下町、天満のローカルな商店街の一角にあり、お客さんは周辺に住んでいる、あるいは勤めている人が中心です。壁も取り払ったオープンエアなお店なので、銭湯帰りに洗面器を抱えたままぶらりと立ち寄る人もいて、"大阪一敷居が低い"ワインバーといえます。

——このお店を始められたキッカケを教えてください。

店を開く数年前から自宅でワインを飲むようになったのですが、ワインは価格の幅も広く種類も多いため、いろんなワインを試してみたいと思っても、毎日ボトルで買うとなると費用がばかになりません。しかも、高いワインだからといって必ずしもおいしいとは限りません。であれば、グラス1杯から手ごろな価格で飲めるワインバーがあれば、テイスティング感覚でいろんなワインを楽しめるのではないかと考えたのです。

——開業にあたってはどのような準備をされましたか。

起業のノウハウは、大阪市の中小・ベンチャー企業支援機関である大阪産業創造館(以下、産創館)が主催する起業家支援制度「あきないえーど」を利用して習得しました。産創館が主催するビジネスプランのコンテストに応募して受かったので、半年の起業支援が得られたのです。起業資金は、自分の貯金やら退職金やらを充てました。

アルバイトと海外放浪を繰り返した20代

大阪の下町、天満の商店街にある「luv wine」。銭湯帰りに洗面器を持ったまま立ち寄る人もいるという”敷居の低さ”がウリのワインバーだ

——起業される前はアルバイトをしながら海外を放浪する経験もされたそうですね。

高校卒業後勤めた本田技研では、海外に行きたいという思いからオレゴンの工場勤務を希望したのですが、会社の英語研修も受けてなかったので、当然却下されてしまいました(笑)。だったら自力で海外に行こうと思い、1年ほどで会社を辞めアメリカに行きました。以来、バイトをしてお金が貯まったら海外に出かけ、帰ってきてはバイトをするという生活を10年近く続けました。

——その後正社員になられましたが、なぜ安定した道を捨て起業を選んだのですか。

もともと「いつかは起業したい」と考えており、サラリーマンになったのも、事業をするのに必要な社会人としての常識が身につくだろうと思ったからでした。就職した当初は3年程度で退職するつもりだったのですが、英語研修の営業という仕事が予想外に面白かったこともあり、約8年サラリーマンをしました。

——知識のある英語関連の事業ではなく、なぜワインバーで起業したのですか。

英語で独立する道も考えましたが、昔から飲食が好きだったことに加え、海外を旅するなかでいろんな食に出会い、日本にはない新しい食文化を海外から入れたいという思いがあったからです。

ワインバーはすでにいろんな店がありますが、ソムリエがうんちくを語るような敷居の高い店がほとんどです。そうした堅苦しい店ではなく、日常的に利用できるようなワインバーをやりたいと思いました。いろいろ調べてみると、コストコントロールさえできればやれるとわかったのでこの道を選びました。

のれん分けで多店舗展開。新規事業への参入も

——広告宣伝などはどうされましたか。

チラシをオープン時に配布した程度で、広告宣伝はほとんどしませんでした。お客さんのほとんどはクチコミで来てくれました。天満というのは、街中にありながら下町なので、店の工事をしていると、近所のおばちゃんたちが「兄ちゃん何やんの?」と声をかけてくれて、ワインバーだというと「あそこでワインバーやるらしいで」とクチコミで広めてくれました。

——業績はどうですか?

「あきないえーど」で事業計画を出した際、理想の売上高を書いたら「6坪の店でそれだけの売り上げはありえへん」と言われました。しかし、開業してみるとその数字もあっさりクリアし、以来、資金面での苦労はしたことがありません。業績も右肩上がりに伸びていて、今年度の月商は、前年同月比120-130%で推移しています。

——今後の事業展望を教えてください。

昨年12月、大阪市内の四つ橋に2店目をオープンしました。こちらは、カウンター10席のみの小さな店です。今後は関西圏で10店舗程度出店し、その後は社員の独立支援のような形でセミフランチャイズ的な展開をしていきたいと考えています。"週替わりで7種類(国)のワインを出す"という店のスタイルと"気軽に利用できるワインバー"というコンセプトを守ってくれれば、料理のメニューなどは自由度を持たせたいと思っています。

それから、ワインバー以外のビジネスも計画しています。"ゼロから何かを作り出し、それを収益につなげる"ということが好きなので、アルバイト時代にも、登記こそしませんでしたが、いろんなビジネスをやりました。センスがなかったのか大きな収益にはなりませんでしたが(笑)、ホームページの制作代行など、時代を先取りしたものばかりでした。今後、「luv wine」の事業が安定したら、新しいビジネスにも取り組んでみたいと思っています。そしていつか、「SEVEN SEAS」という社名の通り"7つのビジネスで7つの海を渡る"ということをぜひ実現したいですね。

企業データ

企業名
株式会社SEVEN SEAS
Webサイト
設立
2006年7月
資本金
100万円

掲載日:2010年4月20日