起業の先人に学ぶ
「株式会社くらしナビ」公務員から起業家へ!中小事業者向け求人サービス
大学院で学んだベンチャースピリッツを行政の場に広めたいと公務員になったものの、組織の壁は厚く、当初の夢を実現することができなかった須田晃暢氏。ならば、自らが起業することでベンチャースピリッツを示そうと、5年半勤めた市役所を退職、「くらしナビ」を立ち上げた。
株式会社くらしナビ 代表取締役社長 須田晃暢(すだ・こうよう)
1978年鹿児島県生まれ。同志社大学大学院卒業後、大阪市役所に5年半勤務した後、2006年8月に「くらしナビ」を設立。
役所の仕事はルールでがんじがらめ
——起業される前は公務員をされていたそうですが、安定した職を捨て、あえて起業というリスクの高い道をなぜ選んだのですか。
もともと、私は大学院でベンチャーについて学んでおり、ベンチャー的な発想を仕事に活かしたいと考えていました。おりしも私が就職した2000年当時はITベンチャーブームで、就職の個別相談会などで会う役所の人は「役所にもベンチャースピリッツが必要だ」と言っていたので、私は"ベンチャーから一番遠いところにある行政のなかでベンチャースピリッツを活かそう"と、大阪市役所に就職したのです。
しかし、現実は甘くありませんでした。仕事はルールでがんじがらめ、配属された部署も、区役所、道路関係、保健所など、ベンチャーとは無縁の部署で、思うようなことは何もできませんでした。将来別の部署に異動する可能性があったとしても、自分が想い描くような仕事ができるとは考えられなかったので、起業しようと思ったのです。
——起業の準備はいつごろから、どんなことを始めたのでしょうか。
起業する2年ほど前から準備を始めました。公務員なので営業力もなく、会計の知識もありませんので、とにかくいろんな本を読んで知識を深めました。そうした経営の指南本に"経営には人脈が大切だ"と書いてあったので、いろんな交流会に参加しました。また、お手本にしたいと思える社長をネットなどで調べてメールでアポイントを入れ、経営者としての心得などの話を聞かせてもらいしました。
——面識のない社長に面会を申し込んで会ってもらえるものなのですか。
ええ。驚いたことに、アポイントを申し込んだ社長の半数くらいは会ってくれました。"こんな変わったことをするやつは見たことがない。面白いから一度会ってみよう"という感じで、今ならたぶん会えないような人にも会ってもらえましたね。(笑)
——起業資金はどうされたのですか。
公務員出身で民間企業の経験もないということで、金融機関の融資も受けられませんでしたから、自分の貯金を充てました。
当初の事業、フリーペーパーでは失敗
——事業として、なぜ求人サービス選んだのですか。
実は、当初の事業はフリーペーパーで、御堂筋沿線の情報を掲載したフリーペーパーを作り、飲食店などの店頭に置いてもらっていました。しかし、ホットペッパーなど先行するフリーペーパーもたくさんあったのでなかなか広告は出してもらえず、また、置いてもらう場所の確保にも苦労しました。このまま事業を続けるのは難しいと判断し、8月の事業開始にもかかわらず、その年の12月には廃刊を決めました。
そのあと求人広告をはじめたのは、フリーペーパーの広告営業をしたさい、「クーポンの広告は出せないが、アルバイトの求人広告は出してもいい」という声が多かったためです。紙媒体にすると印刷や設置などの費用もかかるため、ウェブに特化したアルバイト求人の情報サイト「ヤッパシゴト」を立ち上げることにしたのです。
——求人サービスとしては後発ですが、先発サービスとはどのように差別化していますか。
大手のウェブでの求人情報は全国をカバーするものですが、「ヤッパシゴト」は関西限定です。また、知名度が低い分、SEO(サーチエンジン)対策にも力を入れ、主要な検索エンジンで関西のアルバイト情報を検索したさいに、上位に表示されるようにしています。さらに、広告料も1カ月52500円からと、大手の広告料(1回10万円以上)に比べずっと低く設定しています。
——「ヤッパシゴト」のほかに「ジョブマイスター」という事業もやっておられますね。
ええ、これは専用の求人サイトを立ち上げるサービスです。「ヤッパシゴト」を始めたころから、自社専用の求人サイトを作ってもらえないかという相談が多数寄せられたため、このサービスを企画しました。従来、こうしたサービスはシステム開発会社が作っていたのですが、求人サービスのプロである当社が作ることで、より使い勝手がよいサービスが作れると考えたわけです。
求人にITを絡めたサービスを提供していきたい
——利用状況はどうですか?
現在、「ヤッパシゴト」は300件くらいの広告が掲載され、月間40万アクセスを誇る、関西では屈指のサイトに成長しています。「ジョブマイスター」は人材派遣会社など求人関連の仕事をする企業を中心に、これまで30〜40サイトを受注しました。
——業績はどうですか?
フリーペーパーをやっていた当初は赤字続きでしたが、「ヤッパシゴト」を始めてからは黒字化を達成しています。
——今後の事業展望を教えてください。
大手は別ですが、一般に求人関係の会社はITに弱いところが多いので、こうしたところを対象にITを活用したサービスを提供していきたいですね。
——起業を考える公務員の方にメッセージをお願いします。
起業したことでいろんな人に会うようになり、自分の世界がものすごく広がりました。もちろん、会社を存続させなければならないというプレッシャーは常にありますが、それでも、緊張感の中で充実した毎日を送れ、起業してよかったと思っています。もし、現在、公務員をしている方で定年時の自分を想像し幸せな姿をイメージできないというのなら、起業という選択肢もあるということをぜひ伝えたいですね。
企業データ
- 企業名
- 株式会社くらしナビ
- Webサイト
- 設立
- 2006年8月
- 所在地
- 〒556-0012 大阪市浪速区敷津東2-5-17平田ビル3F
- Tel
- 06-6645-5239
掲載日:2009年11月17日