起業の先人に学ぶ
「カフェリング」知識もないまま宝飾業界に新規参入
カフェリングの俣野千秋社長は、企画会社勤務を経て、29歳でコンピュータソフト会社を立ち上げ、その後、35歳のときにジュエリー業界へ転身した。潤沢な資金も豊富な知識もないまま宝飾業界に新規参入した俣野社長だが、現在では、直営店5店舗、全国に84の取引先をもつまでに事業を拡大している。こうした成功の裏には、俣野社長独自の経営哲学があった。
株式会社カフェリング 代表取締役 俣野千秋
またのちあき:1964年大阪生まれ。29歳でコンピュータソフトウェア制作会社を起業の後、35歳でジュエリー業界へ転身。
営業マネジャーからソフト会社を起業。さらにジュエリー業界へ
——勤務されていた企画会社では、部下15人をもつ営業マネジャーを務め、評価も高かったようですが、なぜそこを辞めて、ソフトウェア会社を立ち上げられたのでしょうか。
私は、できるだけ長く働きたいと考えていましたが、その会社は、女性が長く勤めることを期待してはいませんでした。仕事一筋であれば、そこで働き続けることもできたのかもしれませんが、私は、結婚や出産という個人の生活も大切にしたかった。なので、私生活も大切にしながら働き続けられる道を探すために、その会社を辞めました。
転職という方法もありましたが、年齢や経験など、さまざまな要素を踏まえて考えたとき、会社を興す方が自分には合っていると思い、起業を選んだのです。
——1993年にソフトウェアの制作会社を立ち上げられましたが、6年ほどで、まったく異なる業界に転身されましたね。
ソフトウェアの制作会社では、初心者用ソフトを専門の会社と協力して開発しました。当時は、コンピュータの黎明期で、コンピュータの使い方がわからない人も多く、初心者向けのソフトウェアに対する需要も大きかったのですが、開発したとたんバージョンアップを考えないといけないというほど、スピードが速く、ずっと生き残っていくのは難しいと思いました。そこで、次の活路を探しているうちに、ジュエリーの業界に進出することになったのです。
——なぜ、ジュエリー業界を選んだのでしょうか?
最初は、個人的な理由からでした。当時、そろそろ一生付き合えるようなジュエリーショップをもちたいと思っていたのですが、なかなかそうしたお店はありませんでした。百貨店の1階に入っているようなお店は、大勢のお客さんが来店するので、落ち着いて相談に乗ってもらえない。
一方、上の階の宝飾サロンやビッグブランドは敷居が高すぎる。また、町中の宝飾店は、なんとなく入りにくい。こうした不満を感じている女性はほかにもきっといるはずだから、それを解決する店を作れば、需要はあるはずと考えたのです。
——宝飾品販売というのは、目利きが必要なうえ、多額の資金も必要な印象があります。未経験でそうしたリスクの高そうな分野に進出することに不安はなかったのでしょうか。
消費者の視点に立ったジュエリーショップには必ず需要があると確信していたので、不安になる以前に、それを実現する方法を探すことにエネルギーを注ぎました。
たとえば、業界に知り合いがいなかったので、まず、宝飾品の展示会に行き、仕入先を探しました。そして、1粒のダイヤといくつかの枠だけ仕入れ、事業を始めました。また、路面店を出すのはリスクが高かったので、店舗もオフィスビルの8階、ソフトウェア会社の一角という立地でスタートしました。
無理はしないが、その分知恵を出す
——つまり、自分のできる範囲で取り組んだのですね。
はい。ただし、無理をしない分、知恵を絞りました。たとえば、私は専門知識をもたないので、信頼のできる企業の商品を扱いたいと思いました。そこで、仕入先を探すさい、商品の質やデザインとともに注意したのが、出展者の社風です。
従業員の接客マナーからブースに出入りする取引先の態度までチェックし、ここなら信頼できると判断した企業を選びました。そうした企業の商品は、ほかの企業より価格が多少高かったのですが、私はそれを保証料と考え、そこから仕入れることにしたのです。
店を開いたときも、知名度がないうえ、ビルの8階と目立たない場所にあるため、お客さまに来店してもらえるよう、広告や接客などを工夫しました。といっても、画期的なことをしたわけではなく、ほかの店ができていないと思われることをしっかりやるだけでした。それでも、評価は高まり、結果として、路面店を開店できるまでになりました。
卸売事業にも進出した際も、当社の規模では全国の店舗を回って取引先を増やすことはとても無理だったので、国際宝飾展に出展し、そこで引き合いがあった先に商品を卸すようにしました。その結果、いまでは全国84の取引先に商品を卸しています。
——知恵を絞ることで、不可能と思われることも可能になるのですね。
そうです。多くの人は、1つハードルがあると、そこで諦めてしまいがちですが、それではもったいない。需要があると確信できるのなら、それを実現するための方法を探すことが大切です。道は1つしかないわけでありません。いろんな可能性を探り、ベストな方法と正しい順番を選ぶことが必要なのです。
それから、1人ができることは時間的にも能力的にも限られているので、詳しい人とパートナーシップを組むことも大切です。その際、私が意識しているのは、自分だけでなく、相手にとってもメリットがある関係を築くことです。
たとえば、当社では、オリジナルのリングケースを採用していますが、その作り手に対しては、高い品質を求めています。こちらの出す細かい要望に応えるのは決して容易ではありませんが、できあがった箱は、作り手にも"顧客開拓する際に使ってください"と伝えています。これだけ質の高い仕事ができることを示せれば、新規の取引先開拓にも役立つと考えるからです。このように、双方にとってメリットが得られる関係を築くことで、こちらの希望にかなった対応もしてもらえるのです。
働き方も含め、「Cafe Ring」を女性の憧れのブランドに
——WIN、WINの関係を築くということですね。
それは取引先だけでなく、従業員との関係においても同じです。
当社はほとんどが女性従業員ですが、女性は男性と違い、そのライフスタイルもさまざまです。たとえば、結婚している女性でも、子どもがいるかいないかでライフスタイルは違いますし、また、子どもがいる場合でも、近くに支えてくれる両親がいるかいないかでも、やはりライフスタイルは異なります。
そうしたさまざまなライフスタイルをもつ従業員それぞれが輝ける会社を作ることが、企業の成長にとっても大切だと考えています。
——今後の事業展望を教えてください。
今期の決算では、8億5000万円の売上高を見込んでいますが、今後2年以内にこれを10億円まで伸ばしたいと思っています。10億円の売り上げを達成したとき、企業は次のステージに入ると考えており、現在は、その規模にふさわしい社内体制を整えているところです。
また、前述のとおり、ライフスタイルの異なる従業員それぞれが仕事とプライベートを両立できる環境を作ることにも力を入れています。 将来、商品だけでなく、働き方も含め、「Cafe Ring」というブランドが、働く女性にとって理想とされるようなブランドになることを目指したいと考えています。
企業データ
- 企業名
- 株式会社カフェリング
- Webサイト
- 設立
- 2001年1月
- 資本金
- 2,000万円
- 従業員数
- 36名
- 代表者
- 俣野千秋
- 所在地
- 大阪府大阪市中央区高麗橋3-1-14高麗橋山本ビル6F
- Tel
- 06-6227-1300
- 売上高
- 7億円(2007年度)
- 設立
- 2005年5月
掲載日:2014年2月14日