中小企業の未来を語る
竹内利明・電通大客員教授「コロナ禍を飛躍の好機に」
2020年 9月 9日
竹内利明・電気通信大学客員教授は、長年にわたり中小企業支援に尽力してきた。東京都大田区でプレス加工を営む家に生まれ、都内有数のものづくり産業集積地で育った。幼少期から中小企業・小規模事業者の実態を見てきた現場主義者だ。
「人を大切にする経営」唱える
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を主催する「人を大切にする経営学会」の副会長を2014年の設立当初から務めている。20年来親交のある学会長の坂本光司・元法政大学大学院教授に誘われて、着任。以来、人を大切にする経営に取り組む企業の経営実態を見てきた。
人を大切にする経営とは「社員を甘やかすことと勘違いされることがあるが、社員が意欲的に楽しく仕事をする環境をつくり、社員の成長が会社の成長となる経営」と説明する。
審査委員会が定めた指標に照らして直近5年間の決算書を精査し、訪問して職場を見たうえで評価・表彰してきた企業は、120社を超えている。教授は、人を大切にする経営と業績および労働生産性の相関性に着目する。
「中小企業白書2020によると中小企業や小規模企業より、大企業の方が労働生産性は高い。しかし、中小企業、小規模企業それぞれのトップ10%の労働生産性は、大企業の平均値より高い。学会が表彰する企業は、この上位10%に入る企業が多い」
「こうした企業は、景気や業種の成長・衰退に関係なく、付加価値額を上げているという調査結果がある。人を大切にする企業の労働生産性は高く、業績も良好」という。
社員は運命共同体
今年は、世界中の企業が新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、多くが業績悪化を余儀なくされた。教授は「経営者は100年に一度のパンデミックを嘆くばかりでなく、次代の飛躍につながる好機と捉えるべき」と主張する。
「経営者に大切にされているという自覚のある社員は、経営者と一緒に打開策を積極的に考え実行する。経営者が、この心理作用に気づかずしてコロナ禍の危機は乗り越えられない。会社は、社員を運命共同体とすることで成長する」として、120社以上ある表彰企業の事例を参考にするよう促している。
生産性向上にリモートワーク多用促す
教授は、新型コロナウイルス感染症が拡大したことにより、利用者や取引先が打ち合わせなどにオンライン会議を活用することを推奨している。
「これまでは訪問して顔を合わせて話をしないと不誠実を問われる傾向があったが、オンラインによるコミュニケーションを積極的に受け入れるように変わった。当面続くと考えられるウイズコロナ時代は、感染予防策と生産性向上の両面で効果が期待できるリモートワークを多用すべき」と強調する。
図書館のDB活用も
「経営再建からスタートするウイズコロナ時代は、コロナ禍以前から見られた市場の変化が強まっている。この市場動向の変化を読み取る努力が、これまで以上に求められる」とし、事業化調査などには公共図書館のビジネス支援サービスの活用を提案している。
公共図書館のビジネス支援サービスは、全国500以上の公共図書館で提供されており、各種データベースの提供や資料探索を手伝うレファレンス(相談)や中小企業診断士による経営相談会を行う図書館もあるという。
竹内利明氏
1952年東京都生まれ。青山学院大学理工学部卒。自動車部品メーカー勤務後、会社経営を経て現職。ビジネス支援図書館推進協議会会長、人を大切にする経営学会副会長、地域活性化伝道師(内閣府)、中小企業応援士(中小企業基盤整備機構)。専門は、中小企業連携論・地域産業振興論。