中小企業とDX

瞬時に何もかも分かる地方ホームセンターのデータ分析経営【株式会社グッデイ(福岡市博多区)】

2022年 4月11日

社内で先進的なデータ分析・活用を進める柳瀬隆志グッデイ社長
社内で先進的なデータ分析・活用を進める柳瀬隆志グッデイ社長

福岡県を中心に北部九州で64店舗を展開するホームセンターのグッデイ。「経営判断のためにリアルタイムで数字が知りたい」という柳瀬隆志社長の意思の下、今や、店舗運営、経営に関するありとあらゆるものにおいて分かりやすく可視化されたデータ分析が実現した。それら全てが瞬時に抽出可能であり、社内で共有もしている。結果、5年間で売上高が26%伸びた。今後は自社でデータ分析ができる人材の育成を強化するほか、業績向上にも貢献したこれらのノウハウを社外にも広めていく。

過去は“数字見ない文化”、先端ツールに触れたことが転機に

可視化されたデータ分析例。図は売上げ利益率の推移と散布図だ
可視化されたデータ分析例。図は売上げ利益率の推移と散布図だ

(株)グッデイは福岡、佐賀など北部九州を中心とした5県で同名のホームセンターを64店舗展開しており、特に福岡ではよく知られた存在だ。その同社が2015年頃からデータ分析・活用に力を入れている。陣頭指揮を執るのは柳瀬隆志社長だ。

柳瀬社長は2008年にそれまで勤めていた三井物産を退職し、家業のグッデイに入社。営業本部長や副社長を経て、2016年に社長に就任した。

データ分析・活用に取り組むのは、「経営判断のために、リアルタイムで数字を把握したかった」からだ。「当社でいえばそれは主にPOSデータの把握、分析だった」という。

では、柳瀬社長が入社した当時の同社はどうだったかというと、社員が個別のメールアドレスを持たず、社員間や店舗間のやり取りは電話やファックスがほとんどだった。柳瀬社長は「現場の文化として、“数字は見るな”というものも存在した。理由は“勘が鈍るから”。これには驚かされた」と振り返る。それでも社内にはPOSデータは大量にあったので、全店舗の状況を把握しようとシステム部にデータの抽出を依頼することは珍しくなかった。ところが、「毎回エクセルを使って集計していたので、抽出に数日かかると言われることも多々あった」という。それだと経営判断に間に合わない。「データを分析しようにも、環境が整っていなかった」のだ。

転機は2014年。福岡で著名なAIベンチャー会社の社長からGoogleが提供するデータ分析クラウドツールを薦められ、個人的に試してみたことだった。使ってみると、経営判断のための分析が簡単に出来てしまう便利さに、「発見の連続だった」という。ちょうどその時期に、システム部でも最新ツールに関心のある社員が別のクラウドツールを試験的に使い始めた。柳瀬社長は「世の中にそういったツールが出始めた時でもあり、データを経営判断に生かしたいという思いと合致した時だった」と語る。ほどなくして、柳瀬社長はデータ分析プラットフォームの「Tableau(タブロー)」の存在を知る。試用版で自ら使い方を学んだほか、社内でも数人の有志を募って活用方法について勉強会を続けた。その結果、2015年にTableauとグループウェア「Google Workspace」を社内に導入することを決定。データ分析・活用に本格的に乗り出した。

データ提示されれば「無駄な議論起きない」、売上高5年で26%アップ

ホームセンターの「グッデイ」(写真は3月にリニューアルした福岡市の姪浜店)。北部九州5県で64店舗を展開する
ホームセンターの「グッデイ」(写真は3月にリニューアルした福岡市の姪浜店)。北部九州5県で64店舗を展開する

以降、同社ではあらゆるデータ分析が進んだ。来店者数や店舗毎、商品毎の売り上げはもちろん、それらを日々の天候とリンクさせたもの。クレジットカードやQRコードなど種類別やブランド別のキャッシュレス決済の状況。また、コロナ禍以降は、マスクの売り上げの変動などにも追従性が向上し、地域の感染者数との相関関係も追えるようになった。これらはすべて、ボタン操作ひとつで表やグラフで可視化されたものが瞬時に抽出される。またそれらの多くをパソコンやタブレット等で社員の誰でも見ることができる。

そのため、「現場で無駄な議論が起きない」と柳瀬社長は言う。実際、バレンタインデー商戦で、あるブランドのチョコレートの売れ行きが良いと気付いたスタッフがいた。上司に報告するといぶかし気な反応をされたが、可視化されたデータで売れ行きが良いことを示すと、上司も即座に納得して売り場強化を進め、販売数をさらに伸ばしたという。

こういったことは現場に限ったことではない。店長会議などでも可視化されたデータが提示されれば、現状把握の共有が瞬時に済み、その先の議論にスムーズに移行できるのだ。

データ分析・活用に取り組んで以降、業績も向上している。2015年から5年間で、全体の店舗数がほぼ変わらないにもかかわらず売上高を26%伸ばした。また、月次売上高の対前年比の成績を主な競合他社と比較しても、2019年秋以降、最上位が続いているという。柳瀬社長は「会社としてデータを読み解く力が付き、品揃えや在庫、人気商品の配置など、細かな部分で意思を現場に反映させることができた積み重ねだ」とする。

個人へのレコメンド提供も計画

同社では今後、データ活用の範囲をさらに広げる考えだ。計画するのは個人の購買履歴を取り込む仕組みの構築。同社はLINEに公式アカウントを持っており、約26万人が友達登録しているが、現在はキャンペーン情報やクーポン配布にとどまっている。そこに購買履歴を紐付けさせることで、言わば独自のID-POSを形作る。柳瀬社長は「近い将来、個人に最適なレコメンド情報も直接提供できるようにしたい」と力を込める。

また、自社においてデータ分析が出来る人材の育成も強化する。その一環で2022年から、新入社員の入社時研修の項目にデータ分析を加える。同社にはTableauを使いこなす社員が20~30人いるが、今後の新入社員研修でツールの使い方のほか統計学、情報工学なども学ばせる。「データサイエンスの知識を身に付けた人材を増やし、どの部門にも一定数以上を配置する」のが狙いだ。今後、年間で10~20人を育成していくという。

培ったノウハウを社外にも

同社のデータ分析・活用が知られるようになり、柳瀬社長が社外で講演する機会も増えた。すると、以前の同社のように、「社内にあるデータを生かせていない中小企業が多い」ことに気が付いたという。なぜそういった中小企業が多いのか。柳瀬社長は「経営者それぞれがその道のプロであるがゆえに、数字よりも、経験も踏まえて自分の頭の中だけで経営を考えてしまうのだろう」と推測する。一方で、「データの分析、活用は根拠の無い経営判断のリスクを遠ざけてくれる」と強調する。

同社ではデータ活用に課題を抱える企業を支援しようと、2017年からグループ会社のカホエンタープライズで他社に対してデータ活用支援事業を展開している。グッデイで培ったノウハウをもとに、コンサルティングやデータ分析代行を手掛けてきたが、これらを昇華させる形で、2021年6月にはオリジナルの小売業向けクラウドデータ分析サービス「KOX(コックス)」を商品化した。

柳瀬社長は、「当社も数字を見ない文化から180度変わった。今はデータに基づいた判断により、経営の粒度は上がっている。この経験を多くの中小企業に伝えたい」と意気込んだ。

企業データ

企業名
株式会社グッデイ
Webサイト
設立
1950年2月
資本金
5,000万円
従業員数
約1,500人(うち正社員約600人)
代表者
柳瀬隆志 氏
所在地
福岡市博多区中洲中島町2-3 福岡フジランドビル10階
Tel
092-691-5666
事業内容
ホームセンター「グッデイ」の運営