市場調査データ
映画館
2025年 12月 10日
2024年度の国内の映画館市場規模(事業者売上高ベース)は約2,775億円で、前年度比3.3%減となり、4年ぶりの縮小となった(※)。例年に比べ大型ヒット作が少なかったことや、動画配信サービスの浸透が影響したと見られている。一方で、近年、映画館はライブビューイングや舞台中継、スポーツ観戦イベントなど、体験型エンターテインメントの拠点としても機能し始めている。こうした変化が見られるなか、現在の利用目的や映画館選びの基準を知るために、20代以上の男女1,000人を対象にアンケート調査を実施した。
(※)出典:「映画館業界動向調査(2024年度)|帝国データバンク
1. 現在の利用状況
まず、映画館の利用状況をたずねたところ、最多回答が「過去には利用していたが、今は利用していない」の330人(33.0%)となり、以降「半年に1回程度利用している」の217人(21.7%)、「数年に1回程度利用している」の177人(17.7%)、「年に1回程度利用している」の153人(15.3%)と続いた。現在、何らかの頻度で映画館を利用している人は、「月に2~3回以上」から「数年に1回程度」の利用者を合算した632人(63.2%)となった。
2. 性別・年齢別に見た利用状況の内訳
映画館の利用状況を性別・年齢別に示したのが〈図b〉である。まず性別を見ると、「月に1回程度」以上利用する定期的な利用者は男性の方がやや多く、特に20代~30代の若年層で目立った。「半年に1回程度利用している」の割合は、男女間、さらに年代間でもそれほど大きな違いは見られないが、「年に1回程度利用している」の割合は、男女ともに高齢になるほど下がっている。高齢層の映画館の利用状況は、半年に1回以上訪れる層と、ほぼ訪れない層に二分される傾向が見られる。
また、「過去には利用していたが、今は利用していない」と答えた割合は、女性は年代が上がってもそれほど大きく変わらないが、男性ははっきりと増加している。年齢が上がるにつれて、女性よりも男性の方が、映画館離れが進むようである。
3. 利用の基準(現在の利用者および過去の利用経験者)
「1.現在の利用状況」の設問で、映画館を利用している、または利用したことがあると回答した962人を対象に、映画館を選ぶ際に重視するポイントを聞いた。最多得票となったのが「自宅・職場・学校からの近さ」の282人(29.3%)で、その次に「好みのジャンルの充実度」の206人(21.4%)、「館内や座席の快適さ」の170人(17.7%)が続いた。作品の充実度だけでなく店舗の利用しやすさ、快適さが重視されていることが示された。
4. 性別・年齢別に見た利用の基準の内訳(現在の利用者および過去の利用経験者)
映画館を選ぶ際のポイントを、性別・年齢別に示したのが〈図d〉である。まず、女性は「自宅・職場・学校からの近さ」と「ポイントや会員制度のお得感」を重視する割合が男性よりも多い。また、60代以上は「館内や座席の快適さ」への関心も高い。一方の男性は、「自宅・職場・学校からの近さ」を重視している点は女性と共通しているが、「音響や映像の質」や「上映作品の数の多さ」などへの関心が高い傾向がある。さらに、40代以上になると「好みのジャンルの充実度」を重視する層が多くなる。男性の方が作品そのものへ関心がやや強い傾向にあるようだ。
年代別に見ると、全般的に「自宅・職場・学校からの近さ」が重視されているが、中でも若年~中年層を中心にその傾向が強い。若い世代では「好みのジャンルの充実度」や「上映作品の数の多さ」といった内容重視の傾向がやや強く、年齢が上がるにつれて「館内や座席の快適さ」や「映像や音響の質」など、鑑賞環境へと関心が移る傾向が見られる。
5. 利用にかける費用(現在の利用者および過去の利用経験者)
飲食代やグッズ代を含めて、映画館1回の利用にかける金額を聞いた。最も多かった回答は、「1,500円~2,000円未満」の419人(43.6%)だった。この回答と「1,500円未満」の307人(31.9%)を合わせて、「2,000円未満」が7割以上を占めた。一方で、「3,000円~4,000円未満」は20人(2.1%)と大幅に減り、「3,000円以上」の3つの回答を合算しても38人(4.0%)。利用金額の上限は3,000円程度と認識しておくと良さそうだ。
6. 性別・年齢別に見た利用にかける費用の内訳(現在の利用者および過去の利用経験者)
映画館1回の利用にかける金額を、性別・年齢別に見たのが〈図f〉である。30代・40代の女性では、「1,500円未満」と「1,500円~2,000円未満」を選ぶ人がほぼ同数だが、60代以上女性では、「1,500円未満」が44.6%と最も高く、「2,000円以上」かける利用者は2割に満たない。
男性も女性と同様に「1,500円~2,000円未満」が最も多いが、30代~50代男性では「2,000円以上」という回答が25%前後あり、比較的、高い金額をかけて鑑賞する層が一定割合存在する。ただし、60代以上男性は「1,500円〜2,000円未満」が過半数を占めるほか、「1,500円未満」も30%強と高い。主に60歳以上を対象としたシニア割引などが影響していることも考えられる。
7. 利用する理由(現在の利用者および過去の利用経験者)
映画館を利用する理由をたずねたところ、「大画面・高音質で見たいから」が385人(40.0%)、「気になる作品をいち早く見たいから」が303人(31.5%)となった。自宅ではなかなか味わえない、映画館ならではの魅力を示すこれら2つの回答が、全体の7割以上(71.5%)を占めた。一方で、「快適なシートで見たいから」や「作品のグッズを買いたいから」は少数だった。設備面や関連商品の充実度よりも、作品そのものや映像体験を重視する傾向が強いようである。
8. 性別・年齢別に見た利用する理由(現在の利用者および過去の利用経験者)
映画館を利用する理由を性別・年齢別に見たグラフが〈図h〉である。女性は男性と比べると「友人などと一緒に楽しみたい」傾向がやや強い。30~40代は「気になる作品をいち早く見たいから」の割合が多く、50代以上は「大画面・高音質で見たいから」「作品に没入したいから」を選ぶ層が増える。鑑賞環境を重視し、落ち着いて映画を満喫したいという要望が見て取れる。
一方の男性を見ると、20代は「気になる作品をいち早く見たいから」「作品に没入したいから」「作品のグッズを買いたいから」という層が他の年代よりやや多い。60代以上は「大画面・高音質で見たいから」が突出しており、男女合わせた全年代で最多の回答となった。
全体として、若年層は話題作や友人との鑑賞など、楽しさを重視する傾向がある。世代が上がるほど大画面・高音質や、快適なシートなど環境を重視する傾向が強まり、50代以上ではそれがさらに顕著になるようだ。
9. 今後の利用意向
アンケートの全対象者1,000人に今後の利用意向をたずねたところ、「ぜひ利用したい」が342人(34.2%)で最多回答となった。これと「どちらかと言えば利用したい」の333人(33.3%)を合わせた675人(67.5%)が利用意向のある割合となる。一方、「どちらとも言えない」が182人(18.2%)で、「あまり利用したくない」と「全く利用したくない」を合わせた消極的な層が143人(14.3%)。これらを合わせると、およそ3人に1人は利用に積極的ではないことも示された。動画配信サービスとの差別化や、価格面での工夫なども求められそうだ。
10. 性別・年齢別の今後の利用意向
今後の利用意向を性別・年代別のグラフで示した。全般的に「ぜひ利用したい」「どちらかと言えば利用したい」を選んだ利用に積極的な層が6割を超える。女性は50代で「どちらとも言えない」がやや増え、消極的な姿勢が見えるものの、ほとんどの年代で映画館の利用意向がある割合が多い。
男性も肯定的な回答が中心ではあるが、女性と比べると「全く利用したくない」「あまり利用したくない」という層が多い。さらに、女性は年代が上がっても利用意向にはそれほど変化が見られないが、男性は年代が上がるにつれて利用意向のある割合が減少する傾向が見て取れる。
11. まとめ(ビジネス領域としての映画館)
本調査の「1.現在の利用状況」で最も多かった回答は、「過去に利用していたが、今は利用していない」の33.0%だった。特に男性は年代が上がるほどこの割合が多く、かつては映画館を訪れて作品を楽しんだものの、今は自宅で作品を鑑賞している、あるいは他の娯楽を楽しんでいるというライフスタイルも推測できる。日常的な娯楽としての映画の魅力が、相対的に弱まっていることも考えられる。
しかし、今後の利用意向を聞いた設問では、全体の67.5%が前向きな回答を選んでいる。これらの層を満足させながら、「どちらとも言えない」と考える層を引き込むには、まずは動画配信サービスとの差別化を図ることが重要であろう。映画館ならではの大画面・高音質による没入感を提供することはもちろん、舞台あいさつや限定上映などの特別な体験を提供できれば、大きな集客につながることは言うまでもない。また、「5.利用にかける費用」の設問では、映画館1回における利用金額が3,000円未満の層が多いことが分かった。会員制度や割引パッケージの充実、食事やグッズとのセット販売など、利便性や付加価値を高める施策は、リピーター獲得のためにも常日頃から心がけたい。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を基にした一般的な内容になっています。個別の施策等を検討される際には、別途、専門家に相談されることをお勧めします)
調査概要
- 調査期間:
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2025年7月5日~9月21日
- 調査対象:
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国内在住の20代男女、30代男女、40代男女、50代男女、60代以上男女。
サンプル数(n)1,000人
- 調査方法:
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インターネットによるアンケート調査
最終内容確認日2025年12月