~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~
第156回中小企業景況調査【令和元年4~6月期】
海外情勢に慎重なまなざしを向ける中小企業経営者
2019年4-6月期の中小企業景況調査では、全産業の業況判断DIが▲15.5(前期差0.6ポイント減)、製造業の業況判断DIが▲15.0(前期差0.5ポイント減)、非製造業の業況判断DIが▲15.6(前期差0.6ポイント減)という結果が示された。また、今期の調査に寄せられたコメントを振り返ると、世界経済の動向に対する懸念が高まり、海外情勢に慎重なまなざしを向ける中小企業経営者の姿がみられた。
1.海外情勢の影響と中小製造業との関係
今期の業況判断DIは、全産業▲15.5(前期差0.6ポイント減)、製造業▲15.0(前期差0.5ポイント減)、非製造業▲15.6(前期差0.6ポイント減)といずれも僅かに低下する結果となった。
今回のテーマである海外情勢による国内経済への影響をみていくと、2013年以降の国内経済は、リーマンショックから続いた円高から一転して、円安が続いたことで、訪日外国人旅行者数が増加し、各地で観光による飲食や宿泊の需要が増加した。加えて、一部のMade in Japanの製品がお土産品として人気を集め、化粧品や食料品、日用品を購入する外国人旅行者の姿がメディアなどから広く報道された。また、中小製造業においても図のとおり、2013年以降は円安を追い風に輸出額が大きく増加した。ただし、2014年以降は一転して下降局面を迎え、その後、2016年半ばを境に持ち直しの動きをみせるものの、2018年4-6月期以降は減少が続いている。中でも、2018年4-6月期から今期(2019年4-6月期)にかけての推移は、2014年1-3月期以降の推移と比べると減少幅が大きい。また、中小企業景況調査に寄せられる中小製造業の経営者のコメントをみると2018年に発生した米中貿易摩擦の影響を不安視する声が調査を重ねる毎に増加している。
2.中小企業経営者が見つめる先にあるもの
今期のコメントをみると、製造業に限らず、幅広い業種の中小企業経営者が海外情勢の動向を注視していることが確認できた。そこで、今期寄せられたコメントから海外情勢に対する中小企業経営者の認識について確認していく。
【コメント】
<製造業>
- 米中貿易戦争の影響を予期して微妙な舵取りを行なったことで、今のところは大きな影響は受けていない。しかし、米国も中国も日本等周辺国も過熱すれば我々のような末端にまで悪影響が来ると想定している。(機械器具 福島)
- 米中貿易摩擦、イラン原油輸入問題にからみ日本国内の景気がどうなるか原材料の上昇、内需の低迷を懸念します。(化学 長野)
- 5月に入ってから受注が減っている。恐らく川下側の景気不安心理に依るものだと思われる。とりわけ、10月からの消費増税、米中貿易摩擦は実に痛い。救いは、気候動向が昨年よりはマシということだ。(繊維工業 愛知)
- 米中覇権争いの影響でユーザー(一部)の中国向け製品の輸出が止まっている。今の状況が長期化すれば、当社の経営環境は更に悪化する。早期に米中貿易戦争が終結してほしい。(機械器具 兵庫)
- 米国と中国の貿易摩擦問題等、中国経済の減速及びアジア、新興国における経済成長の低下により国内重要顧客の生産減につながった。また人手不足により生産設備の稼動効率が悪化。省人化対策が急務である。(機械器具 徳島)
<建設業>
- 今年は年号も変わり新たな気持ちで取り組まなければと思うが資材、賃金他あらゆる物が高騰して大変な令和元年を迎えている。米中の貿易摩擦のあおりで大変な1年を迎えている。仕事の受注も大変になると思う。(長野)
- 前年よりは受注が低下しているが、過度に下がっている訳ではなく適正な状態。先々の引合もあるが、ゼネコンの競争による単価低下と中国の景気減速の影響を受ける可能性がある。(愛知)
<卸売業>
- 米中貿易摩擦による半導体関連設備需要の停滞が、ユーザーの購買量の低下に繋がっている。(山形)
- 古紙のリサイクル業は、販売においては、国内だけではなく、海外も含めてルートが構築されており、その海外ルートが中国の環境規制により、崩壊の危機に瀕している。これにより需給バランスが崩れかけている。(福岡)
<小売業>
- この先どうなるのでしょうか?米中の関係性の悪化はどんな試練が待っているか。輸入が思うようにならないとどう社会は対応して行くのか不安です。(三重)
- アメリカと中国の摩擦による原油高高騰が影響し、利益の減少となっている。(高知)
- 米中の貿易摩擦の影響や米の対イラン制裁により、原油の仕入単価上下の変動が大きくなり、マージン確保が難しい。10連休の後と、今は農繁期なので、消費者の動きも鈍い。(徳島)
<サービス業>
- 荷主先によっては、輸出品目を扱っている所もあるので、米中貿易摩擦の動向による影響を注視しています。内需については、例年同様の出荷になります。(対事業所サービス業 山形)
- アメリカ、中国の影響が出てきている。加えて韓国の問題も含めて、過去最悪の景気になるかもしれない。(対事業所サービス業 岐阜)
- 米中の貿易摩擦の件、米国の輸入関税アップの件、イラク等中東の不安定さ、10月からの消費税アップの件等に1ヶ月先がなかなか読めない状況で、最悪のシナリオに対する準備だけは心がけておく。(対事業所サービス業 岡山)
3.見通し:局面における冷静なまなざし
前期のレポートでは、海外との接点を増やすべく活動を進めてきた中小企業の経営者が先行きに対して不安視していることを指摘した。
今期のレポートでは、まず、こうした声が多く寄せられていた中小製造業の過去10年間の輸出額DIの推移を確認した。次に、2018年に発生した米中貿易摩擦の影響を憂慮するコメントが景況調査の回を重ねる毎に増加していることを受け、製造業を中心に中小企業の経営者は海外情勢についてどのような認識を持っているのか、今期のコメントを確認した。その結果、製造業では、米中貿易摩擦の影響により輸出が減少もしくは停止し、経営環境の悪化を訴える声がみられた。また、建設業や卸売業においては、中国の景気減速への影響を不安視する声が多く、小売業やサービス業からは、米中貿易摩擦の影響に加えて、中東の不安定化による原油価格の乱高下や韓国との問題による先行きへの不透明感を示すコメントが寄せられていた。
冒頭の通り、今期の業況判断DIの変化は僅かであったものの、本調査へ寄せられたコメントでは、海外情勢に慎重なまなざしを向け、次の行動を模索する経営者の姿が確認できた。今回のレポートで注目した米中貿易摩擦の他にも新興国経済の動向が刻一刻と変化する中、潮目が変わる時、経営者には大きな決断が求められる。そのようなことが起きないことを願いながらも、時が来たら必要な経営判断ができるよう、まずは現状把握に努めることが重要である。そのことを今期の調査結果において、中小企業経営者たちは示してくれているのであろう。
- 文責
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ナレッジアソシエイト 平田博紀