~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~
第154回中小企業景況調査【平成30年10~12月期】
人手不足の中に見る中小企業経営者の創意工夫
2018年10-12月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DIが▲13.8(前期差1.8ポイント増)と3期ぶりにマイナス幅が縮小した。かつてないほどの猛暑や相次ぐ自然災害の影響を受けた前期の反動等が影響しているものと伺える。
一方で、今期の調査に寄せられたコメントには、人手不足の問題を懸念する中小企業経営者の声が多くあり、経営基盤を揺るがすほどの影響をおよぼしていることが伺えた。こうした状況にどう対応していけばよいのかを検討していく。
1.中小企業における人手不足はいつ始まったのか?
今期は、自然災害や天候に翻弄された前期から一転し、主要DIに改善が見られた。一方で、全ての産業において人手不足の問題が慢性的に広がりを見せていた。図-1は1991年以降の従業員数過不足を指数化したもので、推移を見ていくと、今期の水準は、バブル景気の名残がある1992年~1993年と同程度となっていることが確認できる。
中小企業景況調査の調査結果をあらためて振り返ると、過去30年間、全ての産業において、一般的な景気拡大局面には従業員数過不足DIが不足方向へ変化し、景気の悪化とともにその水準は過剰の方向へと推移する傾向にあることがわかる。具体的には、バブル経済の崩壊とされる1992年以降、急速に不足感が減少し、1990年代後半より過剰に転じ、2005年~2007年にかけて一時的に不足超へ推移するものの、その後のリーマンショックにより多くの産業が過去30年間で最大の過剰期を経験していることがわかる。しかし、その後は全ての産業の中小企業が急速に人手不足に陥り、リーマンショックから10年を経過した今期にはそれが慢性化していると言っても過言ではない状況に至っている。
2.過去10年間における産業別の従業員過不足感の推移
近年の従業員数過不足DIの推移(図-2)からその状況を見ていくと、2008年のリーマンショック以降、人手不足は全ての産業において広がっている。中でも建設業は2012年を境にバブル期の水準にまで届く勢いで問題が顕在化している。また、10年前に余剰人員を大きな経営課題として抱えていた製造業も、2013年以降、不足感に苛まれている。サービス業では、建設業や製造業よりも一足早い2010年頃より不足超の状態に入り、その後なだらかにではあるが下降の一途にある。一方で、卸売業や小売業では、他の産業に比べ人材の不足感は強く示されておらず、産業間に差があることが確認できる。
3.人手不足がまねく問題
リーマンショック以降に顕在化し始めた人手不足は、最近になりその勢いを増している。しかし、その影響は産業間で差があり、また、問題が顕在化し始めたタイミングも異なることが従業員数過不足DIの推移から確認された。こうした状況の中、中小企業経営者たちはどのように人手不足という問題を認識し、対応を図っているのだろうか。今期寄せられた多くのコメントを産業別に確認しながら、その具体的な状況を把握していく。
【コメント】
<製造業>
- 前年と比べ取引先が減少し売上は減少している。従業員が退職し労働力が不足しているが補充できていない。今後は外国人の労働活用も含め検討していきたいと考えている。(食料品 大分)
- 従業員の確保が最大の問題になっている。入社希望者が無く、自然減少で、社員数が減少している為、外国人の受け入れをふやす事を考えています。社員にとって、もっと魅力を感じる職場作りについても検討したい。(繊維工業 秋田)
- 今後は人員不足等により生産設備の自動化により力を入れなければ受注量に対応できなくなるので供量増加し心頼をえなければ顧客要求に対応できなくなる。AI、IoTの導入を行っていく(電気・情報通信機械 長野)
<建設業>
- 難易度の高い工程の依頼が増加しているが、熟練技術者不足や確保が難しくなっている。特殊作業であるため、受注単価が良い反面、施工上の問題も多く、受注を躊躇することが増加している。(建設業 福岡)
- 相変わらず人材確保が困難な状況が続いている。売上を上げるためにも、より多くの資格保持者が欲しいので、今後は社員の教育に力を入れて行きたい。(建設業 埼玉)
- 前期より、インターネットでの募集を行っておりますが人手不足解消には、至っておりません。人手不足を補う為、どのようにするか、さらに考えていきたいです。(建設業 京都)
<卸売業>
- 現在は、人員不足の状態にあり、従業員の増員により残業時間の短縮に務める。労働環境の改善をはかる。(卸売業 沖縄)
- 元々少人数で経営していたが、短期間に人員が減った。効率を上げる工夫をしながら、適した人材を確保できるよう試行錯誤している(卸売業 秋田)
<小売業>
- 人材確保、働き方改革、消費税上昇と商売以外に取り組む課題が山とあります。事業主が日々楽しく孤立せず内外を上手く巻き込み人が人を呼ぶインナーブランデイングで会社を強くしていきたいです。(小売業 石川)
- ネット通販や過度な価格競争で非常に厳しい状況ですが新たな取り組みを模索して生き残らないといけない。また、人手不足が深刻化する中で社風をよくすることも大きな課題となっております。(小売業 沖縄)
<サービス業>
- 人材の確保、教育についての経費の増加により、育たない社員やすぐ辞めてしまい利益が出る前に退職する場合があり、バス事業は特にその点が目立つ。労働時間が長い業界の為、募集してもなかなか来ない。(対個人サービス業 埼玉)
- 働きやすい環境づくりと、勤務体系の柔軟性など働き方改革に取り組み、改善しても、ドライバーの高齢化による、将来の不安と、若手の運転手の確保が出来ない為の慢性的な人手不足が課題。(対事業所サービス業 神奈川)
- エンジニアの採用難が続いていて、新率生も徐々に困難になって来ている。社内の人間教育及び技術的教育をもっとすべきだが、プログラムや時間の確保も難しい問題となっている。(情報通信・広告業 京都)
4.見通し:求める人材を深く知る
産業別のグラフの推移を踏まえ、コメントを確認していくと、人手不足という言葉には非常に多様な意味・内容が含まれていることがわかる。顕著な不足感を示している建設業については、職人や技術者、有資格者といった専門性を持つ人材を採用することができずに苦心していることが問題点となっている。製造業では、従業員の世代交代がうまくいっていないことを受け、外国人の採用をどのように行っていくべきかを模索する中小企業経営者の声が多くあった。サービス業では、若い人材の確保が困難な状況の中で採用できた育成途中の若い従業員の退職が問題として挙げられている。
採用は、コスト負担の問題や需要の動向に左右されるところではあるが、グラフの推移に示されるように人手不足は慢性的な問題として確立されつつある状況と言える。したがって、自社が求める人材とはどのような人材なのか。その人々がどのような状況にあり、何を求めて働こうとしているのか。今期寄せられたコメントにある通り、多くの中小企業経営者が人材育成と魅力ある職場づくりに注力するようになっている中、自社が求める人材に対する深い理解に基づいた採用行動を検討し実践していくことが人手不足という問題を打開するきっかけとなるのだろう。
- 文責
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ナレッジアソシエイト 平田博紀