~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~
第151回中小企業景況調査【平成30年1~3月期】
緩やかな業況改善の中、一服感を見せる資金繰りDI
2018年1-3月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が▲13.9(前期差0.5ポイント増)と2期連続で上昇し、緩やかながら改善基調を維持している。ただし、全産業の売上額DI(前期比季節調整値)や全産業の資金繰りDI(前期比季節調整値)の水準は最近1年間にわたり小幅な上下動を繰り返しており、業況判断DIが示す曙光の中で、一進一退の経営が続いていることが示唆される。今期はその内実について、経営者より寄せられた声から検討していく。
1.業況判断DI・売上額DI・資金繰りDIの産業別の推移
今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)は、業況判断DIで▲13.9(前期差0.5ポイント増)、売上額DIで▲13.2(前期差0.7ポイント減)、資金繰りDIで▲11.8(前期差0.4ポイント減)となっている。
業況判断DI(前期比季節調整値)を産業別に見ると、製造業▲10.1(前期差2.2ポイント減)、建設業▲4.1(前期差2.0ポイント増)、卸売業▲13.5(前期差0.0ポイント)、小売業▲22.6(前期差4.5ポイント増)、サービス業▲14.8(前期差1.0ポイント減)となっている。また、産業別の売上額DI(前期比季節調整値)に目を移すと、製造業では▲9.4(前期差4.4ポイント減)、建設業では▲6.1(前期差0.1ポイント減)、卸売業では▲12.4(前期差0.2ポイント増)、小売業では▲19.5(前期差4.4ポイント増)、サービス業では▲14.2(前期差2.2ポイント減)といった状況にある。
全産業で見ると、今期の業況判断DI(前期比季節調整値)と売上額DI(前期比季節調整値)は反対の動きを示しているが、産業別に見ると、リーマンショック直後に比べいずれも高水準ながらも、製造業やサービス業では停滞感が漂い、建設業や卸売業はほぼ横ばい、小売業は大きく改善と同じような動きを示している。
一方で、資金繰りDI(前期比季節調整値)を産業別に見ると、製造業で▲9.2(前期差1.8ポイント減)、建設業で▲4.9(前期差1.1ポイント減)、卸売業で▲6.4(前期差1.5ポイント減)、小売業で▲18.6(前期差1.7ポイント増)、サービス業で▲12.2(前期差0.5ポイント減)と、過去10年間と比較して依然として高水準にあるものの、小売業以外の産業のDI値が揃って低下している。
2. 足踏みする資金繰りDIとその内実
産業別の業況判断DI(前期比季節調整値)や売上額DI(前期比季節調整値)がほぼ同様に推移する中、ここにきて一服感を示した資金繰りDI(前期比季節調整値)の動きには、どのような状況が反映されているのだろうか。今期、中小企業経営者より寄せられたコメントから詳細を紐解いていく。
【コメント】
- 3月引渡しの工事が1件あり完成工事に入れました。4ケ月の工期延長があり資金繰りが大変な状況です。(建設業 青森)
- 売上が昨年150%となり、工場に手狭感があったが、4月より移転を実施予定である。借入額等が増加することで、資金繰り面において不安が感じられる。(食料品 秋田)
- 季節的、短期的な受注減少に対して設備投資や人件費分の経費が圧迫し資金繰りが困難になった。(その他製造業 山形)
- 年度末が近づき、未消化工事、資金繰り共に順調に推移しています。年度始めも受注工事が、とぎれることがないよう願っているところです。(建設業 山形)
- 年度末をむかえ、受注した工事がほぼ完了となるが、工事代の入金は4月以降にずれ込むため、資金繰り等が厳しくなりつつある。また、引合いは多少あるものの、実質動き出すのは新年度に入ってからと思われる。(建設業 福島)
- 受注増加に対応すべく社内生産体制の遅れが資金繰り等を悪化させている為、システム構築が急務である。ここ1~3年は現状の受注状況が続くと孝えられるので対応策を孝えている。(機械器具 栃木)
- 原材料が安いので助かっているが、その割合に利益が出ない状況です。設備に相当の資金が流れ、利益の割に、資金繰りが楽になりません。一年位の間、大きな設備をしないで、利益を出したい。(食料品 群馬)
- 仕事は暇にならない程度にあるのですが、なかなか採算に合わず、いつも資金繰りに頭を痛めています。消費税の事も心配です。(対個人サービス業 千葉)
- 降雪量が多く、仕事のキャンセルが続いており、売上の大きな減少により、資金繰りが悪化してきている。それに加えて、車両の老朽化による修繕費も増えているのであまり状況はよくない。(対事業所サービス業 富山)
- 借入の一部が完済、老朽した設備と人事の整理により資金繰りは好転。新年度に始まる新事業は順調。それに並行して既存サービスを続けたかったが、熟練者定着に苦労し難行。新体制にて次期または将来見越して改革。(対個人サービス業 石川)
- 取引先からの注文量は増大しているが、資金繰り難から従業員確保が出来ず、生量を増やせず売上が伸ばせない状況である。(繊維工業 岡山)
- 今期の売上は増加していたが、材料、特に青果の値段が高く、利益が少なかった。3月に行う予定の施設改修に伴う資金で予定外のものがでてきた為、資金繰りがさらに悪化してしまった。(飲食店 宮崎)
3.見通し:グローバル市場は、ますます身近な存在になっていく
全産業の業況判断 DI が示す通り、中小企業は概ね緩やかな改善ムードの中にあるのだろう。寄せられたコメントにおいても、仕事を多く抱え奔走する中小企業経営者の姿が目立っていた。ただし、その裏で、一時期に比べ明るさを取り戻しつつある経営環境の中で、資金繰りへの対応を模索している様子がうかがえる。
様々な条件の仕事を、どのように、また、どこまで引き受けるべきか。人件費や原材料価格と照らして採算に合う仕事なのか、設備の新規導入や増設、入れ替え、整備に係るコストに見合う 条件の仕事なのか、借入金の返済 対応に貢献する仕事なのか。 業況や売上が改善を見せる中で、一服感が示された今期の資金繰りDI(前期比季節調整値には、仕事が多くなったからこその経営者の悩みも垣間見られる。変化の激しい、先行きの見通しにくい現代において、目の前の仕事が経営活動にどのような影響を及ぼすのかという視点を持ち、収支のバランスを冷静に見極めながら活動している中小企業経営者の苦労が映し出されているように見受けられる。
中小企業の経営者には、求められる仕事の量・質に対して、足元や近い将来の経営状態のバランスが崩れないように配慮する、もしくはそのバランスを調整することも求められるのであろう。今期の調査へ寄せられたコメントは、今後の中小企業経営に様々な示唆を与えるものとなっている。
- 文責
-
ナレッジアソシエイト 平田博紀