~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~
第140回中小企業景況調査【平成27年4~6月期】
消費税増税から1年、売上額の動向を経営者はどう見ているのか
2015年4-6月期の中小企業景況調査では、全産業・製造業・非製造業の業況DIにおいてマイナス幅が広がり、一部業種では足踏み状態にあることが示された。
消費税の増税から1年が経過した今期、業況判断DIや資金繰りDIに比べても、売上額DIの伸び悩みが懸念される。この状況について経営者がどう考えているのか。寄せられた声をひろってみた。
1.売上額DI、産業ごとに明暗分かれる
今期の全産業の主要DI(前期比季調値)を見ると、業況判断DI▲18.7(前期DIとの差(以下、前期差)▲0.9ポイント減)、売上額DI▲17.3(前期差▲2.6ポイント減)、資金繰りDI▲14.6(前期差▲0.1ポイント減)と、各DIに持ち直しの動きが示された前期から一転し、小幅ながらもマイナス幅が拡大した。特に売上額DIの悪化が気になるところである。
今期の売上額DIを産業別に見ると、昨年後半からの悪化の動きに歯止めがかからない建設業やこのところほぼ横ばいで推移していた製造業だけでなく、前期、大幅な改善を示した卸売業、サービス業においても悪化していることがわかる。こうした状況の中、小売業の売上額DIには小幅な改善が続いており、消費税増税前の状況を取り戻しつつある。
2.売上額DIの背景を探る
今期の調査結果では、売上額DIの動向に産業間での違いが確認できる。この背景について、今期の調査において寄せられた経営者のコメントから検討していきたい。
【コメント】
- 退職者の増加により、新規採用をするが全体の増加につながらない。技術者の不足も売上増につながらない一因とも考えられる。(受託開発ソフトウェア業 道南・道央)
- 従業員の技術に合わせて受注をしていたが、単価と経費とのバランスが合わずに、売上げとして伸びない。(織物製成人女子・少女服製造業 青森)
- 売上が増えたのはアップした仕入額を価格に転嫁したためであり、利益がアップしたわけではない。かろうじて転稼できているだけでも幸いである。しかたないとは言え、客に申し訳ない気持ちだ。安心して転稼できるまでまだ時間かかる。食品等の値上がりに慣れ生活ペースが決まらないと難しい。(他に分類されない織物・衣服・身の回り品小売業 宮城)
- 公共事業も増加しているが、技術者不足で外注先を確保するのが困難である。自社内で完結できる案件しか受注できなくなりつつあり売上が増加しない。この傾向は全国的な労働者不足となっており、今後数年は続くと思う。(一般管工事業 山形)
- 昨年よりは着実に伸びている。高額商品が売れはじめた事が売上増になっている感じだ。また消費者の多様化が感じられ、いかにそれらの方の望む商品の仕入をしてお客様に楽しませてあげられるかが商店の腕の見せどころだ。(自転車小売業 東京)
- 常に従業員不足、または人材育成困難、従業員の向上心不足の為、売上につながる事は沢山あるが実際それらを実行メニュー化して売上につなげられない。(美容業 東京)
- 春物衣料の売上が好調で前期に比べ売上は増加している。できるかぎり手持ちの在庫を減らす方向にあり、仕入れ品目数を減らしている。顧客層の高齢化により来店者数も減少化傾向にある。(婦人服小売業 長野)
- 若干国内景気が上向いて来た感があるが未だ弱い。海外引合いが増加して来た実感はある。但し一般消費が見直せないのと、替為の変動の為、原材料、製品の価格上昇が先行するので全面的には良くなるのは時間がかかると考える。(陶磁器・ガラス器卸売業 岐阜)
- 売上のあまり変化はないと思うのですが、従業員の確保が大変厳しい状況にあります。現状は少ない従業員でなんとか乗り切っておりますが、このままだと注文をセーブしなければいけない時が必ず来ると思います。(すし・弁当・調理パン製造業 愛媛)
3.見通し:一進一退の中で求められる経営者の試行錯誤
今期売上額DIが唯一改善した小売業では、仕入価格転嫁や仕入管理の徹底から売上の確保に成功したというコメントが確認できたものの、その他の産業のコメントでは、設備の老朽化や人材不足により、需要の機会を逸してしまっている現状がうかがえた。消費税増税から1年が経過した現在、中小企業の経営状態は一進一退を繰り返している。試行錯誤の中で、必要となる経営資源をいかに調達し、売上や利益の確保につなげていくか。経営者はこうした課題に直面しているのだろう。
- 文責
-
ナレッジアソシエイト 平田博紀