省エネQ&A
変圧器の統合について教えてください。
回答
低負荷で運転している変圧器があれば統合することで電力使用量を削減できます。変圧器を含む受電設備は月次点検が義務づけられており、電気保安協会等が月次点検を行っています。この月次点検時に、低負荷の変圧器の有無について問い合わせることを提案します。
変圧器では性能の指標として全損失を用いています。何故、他機器のように効率で表示しないのかといいますと、元々、変圧器の効率が97%程度以上と高く、省エネ効果が小数点以下の数値となり、取扱い上、不便を感じるからです。この点について、1980年製と2014年度からの新省エネ基準(トップランナー2.)製の50Hz三相500kVAの油入変圧器を例にとり、ご説明します。1980年製とトップランナー2.変圧器の無負荷損と負荷損の一例は下記の通りです。
変圧器 |
製造年 |
無負荷損[W] |
負荷損[W] |
---|---|---|---|
50Hzφ500kVA油入 |
1980年製 |
600 |
2900 |
50Hzφ500kVA油入 |
トップランナー2. |
315 |
2140 |
変圧器の効率は、下式で表されます。
効率[%]=(出力[kW])/(出力[kW]+全損失[kW])×100=(α×Pn×cosθ[kW])/(α×Pn×cosθ[kW]+全損失[kW])×100・・・・(1)
ここで、αは負荷率[-]、Pnは変圧器定格容量[kVA]、cosθは力率です。また、全損失は「トップランナー変圧器について教えてください。」の(1)式により求められます。したがい、力率を1.0としたときの変圧器の負荷率と効率の関係は下図の通りとなります。効率差では認識が困難であることをご理解いただけると思います。
このため、変圧器ではエネルギー消費効率として変圧器損失(W)を用いています。そして、基準となる負荷率として、容量が500kVA以下の変圧器では40%、500kVA超の変圧器では50%を採用しています。なお、変圧器は負荷率が√(負荷損÷無負荷損)のときに最大効率を発揮します。試算例では、
1980年製変圧器では負荷率45%[=√(600÷2,900)×100]で、
トップランナー2.変圧器では負荷率38%[=√(315÷2,140)×100]で、
最大効率を発揮します。
ところで、「トップランナー変圧器について教えてください。」の(1)式に従い、上記例での負荷ごとの全損失を求めた結果は下図の通りであり、負荷率が高くなるほど全損失差は広がり、また、負荷率が低くとも一定の全損失差があることが分かります。
そこで、低負荷率で運用中の2000年製油入変圧器2台を、1台に統合(残りの1台は系統から切り離す)した時の省エネ効果を試算します。
1. 変圧器仕様
- 50Hz 三相1000kVA油入変圧器(2000年製)、2台
無負荷損=1,914W、負荷損=11,951W
2. 試算条件
- 変圧器1の負荷パターン:
昼間の負荷率、稼働時間×稼働日数:39%、8h/日×365日/年
夜間の負荷率、稼働時間×稼働日数:24%、16h/日×365日/年 - 変圧器2の負荷パターン:
昼間の負荷率、稼働時間×稼働日数:15%、8h/日×365日/年
夜間の負荷率、稼働時間×稼働日数:10%、16h/日×365日/年 - 1台の変圧器に統合後の負荷パターン:
昼間の負荷率、稼働時間×稼働日数:54%(=39+15)%、8h/日×365日/年
夜間の負荷率、稼働時間×稼働日数:34%(=24+10)%、16h/日×365日/年
3. 試算
- 現状の変圧器1,2の年間の変圧器損失は、33,533+10,811=44,344kWh/年
変圧器1、2の無負荷損:1.914kW×24h/日×365日/年×2台=33,533kWh/年
変圧器1、2の負荷損:6,093+4,718=10,811kWh/年
昼間:{(0.39)2+(0.15)2}×11.951kW×8h/日×365日/年=6,093kWh/年
夜間:{(0.24)2+(0.10)2}×11.951kW×16h/日×365日/年=4,718kWh/年 - 統合後の変圧器の年間の変圧器損失は、16,767+18,244=35,011kWh/年
変圧器1の無負荷損:1.914kW×24h/日×365日/年×1台=16,767kWh/年
変圧器1の負荷損:10,176+8,068=18,244kWh/年
昼間:(0.54)2×11.951kW×8h/日×365日/年=10,176kWh/年
夜間:(0.34)2×11.951kW×16h/日×365日/年=8,068kWh/年 - 年間の電力削減量:44,344-35,011=9,333kWh/年
以上の通り、低負荷で運転している変圧器があれば統合することで電力使用量を削減できます。変圧器を含む受電設備は月次点検が義務づけられており、電気保安協会等が月次点検を行っています。この月次点検時に、低負荷の変圧器の有無について問い合わせることを提案します。
- 回答者
-
技術士(衛生工学) 加治 均