省エネQ&A
変圧器(トランス)の役割について教えてください。
回答
電気が電線を流れると、電気抵抗により熱が生じます。電力消費は電流が多いほど多く発生するため、電流を少なくして(電圧を高くして)送り出しています。変圧器は電圧の上げ下げを自由に行うことができます。
発電所で発電された電気は、送電線、変電所、配電線、引込み線などを通り、ビル、工場や家庭に送電されています(下図:出典は、経産省 平成23年12月 「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー基準部会 変圧器判断基準小委員会 最終取りまとめ」)。
発電時の電圧は数千V~2万V程度ですが、効率よく送るために変電所で昇圧されます。高電圧で送られてきた電気は各地に設けられた変電所によって徐々に降圧され、それぞれの目的地で使いやすい電圧になって利用されています。その昇圧と降圧を果たすのが変圧器(トランス)です。
発電所から変電所までの電線を「送電線」、最後の変電所から中小工場・ビルや家庭までの電線を「配電線」、主に電信柱から家庭などにつながる線を「引込線」と呼びます。
配電に使用する変圧器は、中小工場・ビルが自らの設備として設置する変圧器と、電力会社が一般家庭に200V/100Vで配電する柱上変圧器があります。
では、何故、変圧器が必要なのでしょうか?
それは、変圧器が電圧の上げ下げを自由に行うことができるためです。電気が電線を流れると、電気抵抗により熱が生じます。この熱が出ただけ電気を消費します。この電力消費は電流が多いほど多く発生するため、電流を少なくすれば電力消費も少なくなります。同じ電力の電圧と電流は反比例するので、電流を少なくして送電中の消費電力を減らすためには、電圧を高くして送り出す必要があるのです。
以下、定量的に高圧送電が有利な理由をご説明します。なお、説明には「FNの高校物理」webサイト(http://fnorio.com/0016High_voltage_power_transmission/
High_voltage_power_transmission.htm)を使用させていただきます。
変圧器は、鉄心に1次コイルと2次コイルを巻きつけた構造になっていて、電流が流れるとコイル内部に磁界が発生し、電圧が生じます。この電圧の大きさは「コイルの巻数」に比例し、多ければ多い程、高い電圧が得られます。
1. 変圧器が無い場合の送電
送電線の抵抗を10Ω、負荷抵抗を10Ωとし、その負荷に1Aの電流が流れているとします。
2. 変圧器により昇圧し高電圧送電する場合
途中にトランスを挟んで送電電圧を上げた場合を考えます。ただし負荷抵抗、負荷電流、発電機の発電電圧をすべて1. と同じとします。
負荷による消費電力はP=VBCI=RI2=10×12=10Wとなり全く同じです。いま負荷側のトランスの巻数比例10:1とします。このときBC間の電圧はVBC=RI=10×1=10Vですが、トランスの理論によりVFG:VBC=10:1だからVFG=100V、IFG:IBC=1:10だからIFG=0.1Aとなります。回路を流れる電流が0.1Aだから送電線による電圧降下はVEF=rI=10×0.1=1Vとなり、消費電力はP=VEFI=rI2=10×0.12=0.1Wとなります。結局E-F-G-Hの回路の電圧降下は1+100+1=102Vとなり、EH間にVEH=102Vの電圧を発生すれば良いことになります。発電電圧は同じVAD=30Vだから巻数比30:102のトランスをつなげば良いことになります。そのとき発電機が送り出す電流はトランスの理論によりIAD=0.1×102/30=0.34Aとなります。つまり発電機が送り出す電力はP=VI=30×0.34=10.2Wです。送電線によるエネルギー損失は0.1×2=0.2Wだから発電機が送り出す電力10.2Wのわずか2%で済むこととなります。
- 回答者
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技術士(衛生工学) 加治 均