省エネQ&A
冷凍庫と冷蔵(倉)庫の設定温度の緩和はどの程度有効?
回答
冷凍冷蔵倉庫では1℃の温度設定の緩和により(庫内温度により変わりますが)4%程度の省エネ効果が見込めます。食料品製造業では冷凍・冷蔵設備の消費するエネルギーは総エネルギー量の80%近くを占めることから、絶対量としては大きな電力削減量となります。
今回から複数回にわたり、冷凍・冷蔵(倉)庫の省エネについて解説します。
冷凍・冷蔵設備とは、食品などの冷却・凍結・乾燥など品質管理・保持や動植物の生育環境の維持等を目的として、対象の温度・湿度等を調節して供給するための設備です。システム的にはエアコンと大差ありませんが、冷やす温度が低いことで成績係数(COP)が低下し(下図:出典は東京都環境局の「冷凍冷蔵倉庫の省エネルギー対策」)、年間を通し温度を維持する必要があることなどから、エアコン以上にエネルギーを消費します。
食料品製造業で冷凍・冷蔵設備を持たない事業所は皆無であり、その冷凍機の消費するエネルギーが事業所で使用する総エネルギー量の80%近くを占めることも珍しくありません(下図:出典は東京都環境局の「冷凍冷蔵倉庫の省エネルギー対策」)。
エアコンと同様に、冷凍・冷蔵(倉)庫の設定温度を緩和(上げる)することは省エネに直結します。以下に庫内温度が事業所で制定された管理標準から外れている(温度を下げ過ぎている)場合など、保管物の品質に影響を与えない範囲で設定温度を緩和(上げる)できる場合の省エネ効果についての定量的な試算方法を解説します。
1. 冷凍・冷蔵負荷
冷凍・冷蔵負荷Qは、Q=k×(Ta-T)で表されます(k:冷凍・冷蔵倉庫の総熱損失係数,W/K、Ta:外気温度,℃、T:庫内温度,℃)。
今、庫内の設定温度をT1からT2まで緩和(上げる)できる場合の冷凍・冷蔵負荷の削減率Q2/Q1は、Q2/Q1=(Ta-T2)/(Ta-T1)で表されます。
2. 冷凍・冷蔵(倉)庫の成績係数
蒸発器における蒸発温度をTc℃、凝縮温度をTh℃とすると、理論成績係数COPtは、COPt=(273+Tc)/{(273+Th)-(273+Tc)}=(273+Tc)/(Th-Tc)で表され、実際の成績係数COPは、全断熱効率ηtad(=断熱効率×機械効率)を加味し、COP=(273+Tc)/(Th-Tc)×ηtadで表されます。
3. 省エネ効果
1.と2.から、庫内の設定温度をT1、T2のときの必要動力W1,W2は、
W1=Q1/COP1=k×(Ta-T1)÷{(273+Tc1)/(Th1-Tc1)×ηtad}
W2=Q2/COP2=k×(Ta-T2)÷{(273+Tc2)/(Th2-Tc2)×ηtad}
で表され、省エネ効果Rは、
R=(W1-W2)/W1=1-(Ta-T2)/(Ta-T1)×(273+Tc1)/(Th1-Tc1) ÷(273+Tc2)/(Th2-Tc2)・・・(1)
と、温度指標だけで表すことが出来ます。つまり、庫内温度、外気温度と熱交換器(蒸発器と凝縮器)出入口の平均温度が分かれば、省エネ効果が定量的に求められます。
4. 試算例
- 圧縮機定格容量:15kW
- 圧縮機運転時間と負荷率:8,760h/年(=24h/日×365日/年)、60%(一般値)
- 外気温度Ta:30℃
- 現状の庫内温度T1:-26℃
- 現状の蒸発温度Tc1、凝縮温度Th1:-36℃、35℃(一般値)←蒸発温度と凝縮温度は熱交換器出入口の平均温度です。また、冷媒の種類と熱交換器出入口の冷媒の圧力から平均温度を求めることもできます。
- 改善後の庫内温度T2:-25℃←1℃緩和
- 改善後の蒸発温度Tc2、凝縮温度Th2:-35℃(=Tc2-10と想定)、35℃(一般値)
- 省エネ効果R=1-(30+25)/(30+26)×(273-26)/(35+36) ÷(273-25)/(35+35)=1-0.982×0.982=0.036 (3.6%の省エネ効果)
- 年間削減電力量ΔE=15×8,760×0.60×0.036=2,838kWh/年
空調設備では一般的に1℃の設定温度の緩和により10~15%程度の省エネ効果が得られるのに対し、冷凍冷蔵倉庫では1℃の温度設定の緩和により(庫内温度により変わりますが)4%程度の省エネ効果が見込めます。
割合的には空調設備の省エネ効果の方が高くなりますが、冒頭のご説明のとおり、食料品製造業では冷凍・冷蔵設備の消費するエネルギーは総エネルギー量の80%近くを占めることから、絶対量としては大きな電力削減量となります。
このような観点から、定期的な庫内温度の監視を行い、保管物の品質に影響を与えない範囲で設定温度を緩和することで簡単に省エネ対策ができますので是非取り組んでみてはいかがでしょうか。
- 回答者
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技術士(衛生工学) 加治 均