省エネQ&A

建物の高断熱化と室内湿度制御について

回答

ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)では40%~60%の間に湿度を調節することを推奨し、東京では夏季に除湿、冬季に加湿が必要です。そして、空調機の高効率化と建物の高気密・高断熱化に伴い、除加湿制御と温度制御を分けて処理する湿度・温度個別空調システムが省エネ面からも注目を集めています。

湿度が低すぎる(空気が乾燥する)と喉の粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなり、50%以上の湿度を保つことでインフルエンザウイルスの生存率が急激に低下すると言われています。逆に、湿度が高すぎるとカビやダニ、結露などの原因となるため、ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)では40%~60%の間に湿度を調節することを推奨しています(下表)。

相対湿度と微生物等との相関関係 相対湿度と微生物等との相関関係

この推奨に従うには、東京では、夏季に除湿、冬季に加湿(注記)が必要なことが分かります(出典:気象庁 1981年から2010年の30年間の月別平均湿度)。

注記:暖房することで室内温度は外気より高くなる分、室内湿度は外気の湿度より低下します。

東京の月別平均湿度 東京の月別平均湿度

ところが、「最近のビル用マルチエアコンで冷房するとオフィスの湿度が高くなる」などの声が聞かれるようになってきました。この原因の一つとして、空調機の高効率化と建物の高気密・高断熱化が挙げられます。すなわち、ビル用マルチエアコンなどヒートポンプ空調機の理論効率(逆カルノーサイクル効率)は下式で表されるため、蒸発温度を高めたり、凝縮温度と蒸発温度の差(温度リフト)を小さくしたりすることは効率向上に寄与します。

逆カルノーサイクル効率 逆カルノーサイクル効率

このため、高効率空調機では伝熱面積や吹出風量を大きくしたりインバータにより回転数を最適化したりすることで、温度リフトを小さくして性能向上を図っています。高気密・高断熱オフィスでは外気負荷が少ない分、空調機は低負荷となり温度リフトが小さくなるため、空調機は効率の良い運転となります。反面、蒸発温度は高くなることで除湿量が減り、室内は高湿度となる訳です。

以上から、空調機の高効率化と建物の高気密・高断熱化に伴い、除加湿制御と温度制御を分けて処理する湿度・温度個別空調システムが省エネ面からも注目を集めています。吸湿材を用いるデシカント方式は有効な湿度制御方式の一方式と言えます。デシカント除湿方式では、「 空調の除湿運転が省エネにならない理由は?」でご説明の通り、除湿COPとして5.0を、また、デシカント加湿方式では、水・蒸気配管で不要で加湿COPとして4.6を達成した省エネ製品も市販されています。

回答者

技術士(衛生工学) 加治 均