省エネQ&A
蒸気の乾き度を求める方法を教えてください。
回答
JIS B 8222では絞り乾き度計により測定することを求めています。日常の管理手段としては、「ボイラー給水中に存在するNaイオンが蒸気中にはほとんど溶解しない」ことに着目しNaイオンメーターを使用する方法もあり、蒸気の乾き度とブローダウン比が同時に求められます。
蒸気は水が気化して気体(蒸気)となったものですから、ベタベタ状態(湿り蒸気)からカラカラの状態(乾き蒸気)まで種々存在できます。一方、蒸気を熱交換器等により間接的に利用する場合、熱的に利用されるのは蒸発潜熱(注1)ですので、カラカラの状態の方がより優れていることになります。この蒸気の程度を表すのが乾き度であり、全蒸気中の乾き蒸気の重量割合として定義されます。ボイラーでは乾き度の高い蒸気を供給すべく、気水分離器が設置されています。
蒸気の乾き度は右図のような絞り乾き度計(絞り熱量計とも呼ばれます。 出典:ボイラー便覧)により測定します。蒸気を断面積の急に狭くなった所(ノズル)を通過させることで、等エンタルピー変化が生じ、2の場所では乾き蒸気となります。通過後の温度と圧力を計測することで蒸気表から過熱蒸気(注2)の比エンタルピーi2を、また、同様に蒸気表から最初の圧力P1での飽和蒸気の比エンタルピーi”と飽和水の比エンタルピーi'を求めることで、最初の蒸気中の乾き度xが下式で求められます。
x=(i2—i')÷(i”—i')
以下は、JIS B 8222で規定された方法ではありませんが、日常の管理手段として簡易的に蒸気の乾き度とブローダウン比が同時に求められる方法を紹介します。「ボイラー給水中に存在するNaイオンが蒸気中(注3)にはほとんど溶解しない」ことに着目しています。このため、Naイオンメーターを使用します。ハンディータイプのNaイオンメーターが市販されています。Naイオンの測定箇所は、(1)ボイラー給水、(2)缶水(ブロー水)と(3)蒸気の三か所です。今、(1)~(3)でのNaイオン濃度をN1, N2, N3、ボイラー給水量をW1、蒸気の乾き度をx、ブローダウン比をyで表したときのNaイオンに着目した物質収支は下表のとおりです。
|
ボイラー給水 |
ブロー水 |
蒸気 |
備考 |
---|---|---|---|---|
Naイオン濃度 |
N1 |
N2 |
N3 |
測定 |
Naイオン量 |
A |
B |
C |
A=B+C |
補足説明:
(式A) W1×N1
(式B) W1×N2×y
(式C) W1×N3×(1-y)=W1×N2×(1-y)×(1-x)
したがって、
(式C)の関係から、乾き度x=1-N3÷N2
(式A~C)の関係から、ブローダウン比y=(N1—N3)÷(N2—N3)
と求められます。
例えば、ボイラー給水中のNaイオン濃度が30ppm、ブローダウン比が7.5%(0.075)、蒸気の乾き度が0.98のときの、
ブロー水のNaイオン濃度は321ppm[=30÷{0.075+(1—0.075)×(1-0.98)}]
蒸気のNaイオン濃度は6.4ppm[=321×(1-0.98)]
です。
注1:物質が液相から気相に変化するときに必要とされる熱エネルギーの総量を蒸発潜熱と呼びます。蒸発潜熱は圧力が低い蒸気ほど大きく、圧力が高くなるにつれて小さくなっていきます。ついには臨界圧力である22.06MPaで蒸発潜熱は0になります。
注2:飽和蒸気を圧力は変えずにさらに加熱した飽和温度より高温の蒸気を過熱蒸気と呼びます。発電等に用いられる大型のボイラーでは蒸発器を出た飽和蒸気を過熱器に通し、さらに加熱することで過熱蒸気を製造しています。
注3:乾き蒸気には液体の水は存在しないためNaイオン濃度はゼロとなりますが、乾き度1未満では液体の水が同伴されているためNaイオンが測定されます。
- 回答者
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技術士(衛生工学) 加治 均