省エネQ&A

風力発電の仕組みと設置するうえでの留意点を教えてください。

金属加工会社の社長をしています。今話題の再生可能エネルギーに関心があり、本社正門に風力発電機を設置して、環境保全を積極的にアピールしたいと考えています。ただ風力発電についてよくわからないので、仕組みや設置するうえでの留意点について教えてください。

回答

風力発電は風力エネルギーを機械エネルギーに変換するローター部、動力を電気エネルギーに変換するナセル部、そして電力を制御し安全に運転させる制御部があります。設置にあたっては、用途を検討し、性能面、コスト面、環境面などを考慮する必要があります。

【風力発電の仕組み】

風力発電は、風の運動エネルギーを機械的な回転力に変換するブレード(羽根)とハブを組み合わせたローター部、その回転力を伝達し増速機や発電機を回転させ電気エネルギーに変換するナセル部があります。さらに、発電した電力をコントロールし、回転体を安全に運転させるための出力・運転制御を行う制御部があります。

風力発電の仕組み 風力発電の仕組み

(1)ローター部

風車の羽根部をブレード、ブレードを固定し風力エネルギーによる回転力を軸部に伝達する部分をハブといいます。ブレードの材質は、軽くて丈夫なFRP(ガラス繊維強化プラスチック)が多く採用されています。

現在圧倒的に多いのは3枚ブレードの水平軸型(プロペラ形)風車です。プロペラ形風車は、大型化しやすく大きな出力が見込めます。しかし、風向制御が必要で、風の乱れたところでは向いていません。一方、垂直軸型(ダリウス形、直線翼形など)風車は、メカニズムが簡単で部品点数は少なく、重量部分は地上近くに設置できるために、安全性もあります。また、方位制御を必要としないことから、風向変動の大きなところでは直線翼形風車が採用され始めています。

ローター部 ローター部

(2)ナセル部

ポールやタワーの上部に設置する風力発電設備の心臓部です。増速機や発電機などを格納する場所で、防水や防音の役目も果たします。増速機は、風車の回転を発電機が必要とする回転数まで上げる装置です。発電機は、回転エネルギーを電気エネルギーに変換する装置で、現在、誘導発電機と同期発電機が主流になっています。

ナセル部 ナセル部

3)制御部

風速や風向にあわせて風車の運転方法を指示して、発電機から取り出す電力を制御し、風車の回転数を調整して、安全に運転させるための制御を行うところです。

風速、風車の回転数、発電機の電流と電圧などを常に監視し、状況に合わせて最適な運転をさせ、異常が発生した場合は風車を制動させます。

【設置するうえでの留意点】

まずは、どのような目的や用途で設置するのかを検討する必要があります。

従来のような大型風力発電システムの系統連系型による売電目的も考えられますが、風のエネルギーは小規模分散型のエネルギー源としても適しており、多くの用途に利用できます。ここでは、その一例を挙げておきます。

  • 温室栽培での加温の熱源(農業)
  • 養殖施設での揚水ポンプの動力源(漁業)
  • 畜産牧場での電力源(畜産)
  • 工場や個人用での自家消費電源
  • 電気自動車の充電
  • 公園や道路の照明
  • 防災・非常用電源
  • 離島や無電源地域における補助電源
  • 無線などの中継用電源
  • 環境教育や環境保全の啓発

ただし、風車から取り出せるエネルギーは風速に大きく影響を受けますので、設置場所の選定には注意が必要です。風車のパワーは、「風車半径の2乗に比例し、風速の3乗に比例」しますので、もし風速が20%強くなると、風車のパワーは1.73倍になります。

風車のパワー 風車のパワー

次に、性能面についても留意する必要があります。風車の形状は多数あり、それぞれのブレード形状により、発電効率や風を捉える性能が異なっています。

水平軸型(プロペラ形、オランダ形)、垂直軸型(サボニウス形、ダリウス形、垂直翼形)などがありますが、一般的に性能面に関してはプロペラ形が最も良いとされています。

さらにコスト面に関して、一般的に工業製品のコストを下げるのは、大型化によるスケールメリットと、大量生産による量産効果です。ただし、風車の大型化は建設を含む全体のコストは下がりますが、機器部分ではコスト高になります。

最後に、環境面に関しても留意する必要があります。環境面の特に騒音に関しては、課題が残っています。一般に風車の騒音については、大きく分けて2種類あります。一つは機械騒音と呼ばれるもので、ナセル中の増速機の歯車や発電機が発する音、もう一つはブレードの風を切る空力騒音です。機械騒音に関してはナセルに収納されていますので、それほど問題にはなりませんが、ブレードからの風切音は、騒音問題となる事例も多く、低周波による騒音公害を与える可能性があります。

最近では低周波音がほとんど発生しない風車も開発されつつありますので、選定の際には検討する必要があります。

【参考文献】

「風車工学入門‐基礎理論から風力発電技術まで‐」 牛山 泉 著 森北出版
「風車博士のやさしい風・風車・風力発電の話」 牛山 泉 著 合同出版
「トコトンやさしい風力発電の本」 牛山 泉 著 日刊工業新聞社

回答者

中小企業診断士・一級FP技能士・第三種電気主任技術者 谷口 英人