省エネQ&A
ヒートポンプによる加熱とは (1)
2019年 12月 4日
回答
ヒートポンプは省エネルギー効果が大きいため、用途が広がっています。今回はヒートポンプのしくみを説明し、次回以降、用途拡大の事例を紹介します。
1.はじめに
ヒートポンプは、大きな省エネ効果を得られる機器であるため、補助金等の対象になることがよくあります。経済産業省の補助金「平成31年度エネルギー使用合理化等事業者支援事業」(注)の「設備単位」の区分では、「産業ヒートポンプ」が他の7種の機器とともに補助金の対象設備になっています。
(注)今年度の公募は終了しております。(令和1年11月30日現在)
また、省エネ法の下の告示「事業者の判断の基準」のいわゆる「目標部分」において、採用を検討すべき機器の一つとしてヒートポンプが挙がっています。
したがって、ヒートポンプに関する基礎知識と活用方法を理解することは省エネを推進する上で必須となります。ヒートポンプは加熱にも冷却にも用いられますが、今回は、用途が拡大している加熱用に限定して説明し、次回以降、その用途拡大の事例を紹介します。
2. ヒートポンプのしくみ
ヒートポンプのしくみはルームエアコンや電気冷蔵庫と原理的には同じです。図1により、身近な家庭用エアコンを暖房で使用するときの運転状況で説明します。
まず、熱源となる冷媒は低い温度でも蒸発するガスが使用されます。ヒートポンプは、冷媒ガスの圧縮機、蒸発器、凝縮器、膨張弁から構成されます。図1の①~④の順に冷媒が変化します。
①蒸発器で、大気より温度の低い冷媒は大気の熱をうばい蒸発し気体となります。
②気体となった冷媒は圧縮機で圧縮され温度が上がります。
③凝縮器で、高温の冷媒は熱を放出し凝結し液体となります。このとき室内空気を暖めます。産業用ヒートポンプでは被加熱物を加熱します。
④液体の冷媒が膨張弁を通るとスプレー缶の吹き出しのように低圧、低温となります。
また、図2はヒートポンプのサイクルをモリエ線図(P-h線図ともいう)の中に表したものです。飽和曲線から上記の①~④のそれぞれでの気体、液体の変化を確認できます。
図1は、電力を1だけ使用することにより、屋外の大気の熱5を吸収し、屋内に熱6を放出することを示しています。このように、ヒートポンプは投入エネルギーの数倍のエネルギーでの加熱を可能にします。
ヒートポンプの効率はCOP(成績係数)で表します。COPは、投入エネルギーに対して得られた冷熱または温熱エネルギーの比です。このとき、利用した大気の熱エネルギーは投入エネルギーには含めません。図1の暖房時のCOPは6となります。
図2のヒートポンプサイクルにおいて、投入エネルギーは②の圧縮、得られた熱エネルギーは③の凝縮になるので、加熱のCOPは、
COP=(h4-h1)/(h4-h3)
と計算します。
3.ヒートポンプの用途の拡大
図3は、産業用の様々な加熱のうち、比較的温度の低い範囲での加熱を業種別に整理したものです。さまざまな業種が含まれていることと、熱の用途が、洗浄、殺菌、蒸留、濃縮、乾燥と幅広いことがわかります。
産業用ヒートポンプは、図4のように年を追って高い温度へ適用可能になり、高温水から蒸気まで発生できるようになりました。その結果、図3に示す製造工程のさまざまな加熱に用いられています。
その中には、廃熱を利用する事例、温熱と冷熱の両方を利用する事例など注目すべき事例があります。次回以降にそのような事例をご紹介します。
【参考文献】
1) 産業用ヒートポンプ活用ガイド、一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター、2018、p.2
2) 浜屋敷 毅、産業用ヒートポンプ活用による省エネルギーの取り組みの現状、月刊「省エネルギー」、2019,vol.71,No.10,p.31
- 回答者
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エネルギー管理士 本橋 孝久