中小企業の税金と会計

会社設立時には戦略的に資本金額を決める

最終更新日:2018年1月25日

税理士として毎年数十名から起業の相談を受けます。ここでは、起業される方からよく尋ねられる質問と最近の起業の傾向を紹介し、これから会社を作ろうという方のヒントになるような情報を紹介します。

なお、個人事業主についての考慮はしていない内容であることをあらかじめご了承下さい。

会社設立時の資本金はいくらがいいのか?

会社設立の相談を受ける時によく尋ねられるのが会社の資本金はいくらにしたらいいのかということです。ご存知の通り、会社法が施行されてから最低資本金制度がなくなり、1円から会社を設立することができるようになりました。会社法施行前は、有限会社は出資金300万円、株式会社は資本金1000万円という最低限度があったので、300万円や1000万円で設立される方が多くいました。

許認可を受ける必要があるか?

まず、会社設立後の事業によっては許認可が必要なものがあります。許認可を受けるには、資本金がいくら以上という形式基準のあるものがあります。許認可を受ける予定がある場合には、資本金のハードルがあるかを確認しましょう。

許認可を受けるために決められている資本金の金額がある場合には、その金額以上の資本金にしておく必要があります。

消費税の免税メリットを受ける必要があるか?

資本金が1000万円以上の法人については、1期目、2期目の消費税が免除されません。

逆に言うと、資本金が1000万円未満ですと1期目、2期目の消費税の納税義務がないため、2年間は消費税の納税額を免除されるという節税メリットがあります。この消費税の節税メリットを受けるには、資本金を1000万円未満としておく必要があります(税制改正により、1期目の半期の売上か給与のどちらかが1000万円を超えていると2期目から消費税の納税義務が生じてくる場合があります)。

また、法人住民税の均等割といって、赤字でも毎年1回納付しなければいけない税金があります。こちらは資本金が1000万円以下か1000万円超かによって税金が変わってきます。1000万円以下だと7万円、1000万円を超えると1億円以下までは18万円となります(従業員50人以下の場合)。

毎年赤字でも課税される固定費のような税金ですので、税金が少ないほうがよければ資本金を少なくしておく必要があります。

消費税の節税メリット、均等割の削減を目指すのであれば、資本金は1000万円未満におさえておく必要があります。

設備投資と運転資金はどれぐらい必要か?

設備投資や運転資金にかなりの金額を要する事業の場合には、資本金が少ないとすぐに資金ショートしてしまいます。

設備投資と運転資金に必要な金額を試算して、その資金をどのように調達するのかをあらかじめ検討しておく必要があります。

すべてを資本金とする必要は必ずしもありません。足りない金額については資本金ではなく、社長から会社へお金を貸すということもできますので、資本金としていくらにするのか借入金としていくらにするのかをあらかじめ決めておく必要があります。

最近起業される会社の資本金事情

筆者の経験上から申し上げますと、設備投資と運転資金にかなりの金額を要する会社や許認可のために資本金を多くしなければいけない法人を除くと、資本金として多いのは10万円、100万円、300万円、500万円という金額です。まったく運転資金を要さないような会社(単に法人格がほしい会社)の場合は資本金10万円でスタートするケースが多いです。多少でも運転資金や設備投資資金が必要な会社や体外的な見栄えを意識する会社は、資本金100万円、300万円、500万円とすることが多いです。

会社の資本金は設立後も増資や減資で変更することは可能ですが、その都度登記をする必要があるため登記コストが発生してしまいます。中小企業の場合には、設立から資本金を変更することは少ないため、メリット・デメリットを考慮しながら慎重に検討するようにしましょう。

株式会社と合同会社はどちらを選ぶべきか?

会社の設立を決めた場合、最初に戸惑うのは株式会社にするか合同会社にするかという点です。筆者の経験では、絶対に「株式会社」という人はいますが、絶対に「合同会社」という人を見かけたことはありません。
株式会社と合同会社の選択のポイントについてまとめてみたいと思います。

合同会社を以前から知っていましたか?

まず、最初に顧客に確認をするのは、合同会社という存在について会社設立を考える前に知っていたかどうかです。

多くは合同会社という会社組織について、会社を作ろうと考える時まで知りません。それが一般的な合同会社の認知度です。合同会社という会社は会社法が施行されてからまだ7年近くしか経過していないため知名度がありません。

知名度がないと、思わぬところで変な誤解を受けます。例えば営業する際、合同会社?何かが合わさった会社なの?怪しそう?なんて思われることもあります。株式会社と合同会社には知名度の圧倒的な差があります。

営業会社やBtoCの会社など組織として業務を行っていくような会社をイメージしている場合には、合同会社の選択は避けたほうが無難です。知名度が低いことは、営業だけでなく採用の際にも苦労します。

設立コストは株式会社のほうが10万円以上高くなりますが、会社の組織形態でわざわざ今後の業務に支障をきたす可能性が高い組織形態を選ぶのは合理的な選択とは思えません。

では、どのような時に合同会社を選択するといいのでしょうか?

個人的な信用(電話をかける時に会社名を名乗らず個人の名前を名乗って仕事をするようなイメージ)で商売をされる場合には、組織の形態はあまり影響ないものと考えられます。また、不動産管理会社などの資産管理会社も組織の形態はあまり影響ありません。このような事業の場合には、合同会社の選択を検討する余地があると思います。

会社の設立に関する本を読むと、株式会社と合同会社の法的な性格の違いが説明されていることが多いと思います。一般的なオーナー企業である場合、この法的な違いというのは大きな違いではありません。営業をガンガンするような会社の場合、合同会社を選択してしまうとことで思わぬ苦労をすることがあります。株式会社と合同会社の選択で迷ったら、株式会社を選択することをお勧めします。

株式会社と合同会社の違い

次に法的な違いについて説明します。こちらは理解できなくても事業さえうまくいけば何とかなるものです。難しい個所は専門家にお任せするという方法もあります。

株式会社と合同会社で、法律で要求される手続きで異なるポイントがいくつかあります。

  1. 役員の任期
    株式会社の役員の任期は1年-10年の間で選択をします。同じ役員が引き続き役員を行う場合でも任期が満了したら、その都度登記し直さなければなりません。登記には数万円のコストが生じます。
    合同会社の役員(正確には社員といいます)は任期がありません。
  2. 所有と経営の分離
    株式会社は株主と役員を区分することができます。株主と役員は別人で構いません。合同会社は会社の持分を有している社員と経営をしている社員は原則として同一人物である必要があります。
    将来増資して株主を増やしていく予定がある場合には、合同会社は相応しくなく、株式会社を選択しておく必要があります。
  3. 決算公告の義務
    株式会社には決算の公告義務がありますので、毎年の決算を官報等に掲載する必要があります。合同会社は決算の公告義務はありません。
  4. 設立手続き
    株式会社は会社を作る際、公証人の認証が必要となります。合同会社の定款は公証人の認証は不要です。公証人の認証が必要な分手続きに時間とコストがかかります。

株式会社と合同会社では以上のような違いがあります。増資をせず、1人オーナー会社でずっと行く場合には、余り影響があるものはありませんので、法的な部分で考慮する必要があるのは、今後増資をして株主を増やす必要があるかどうかです。
少しでも迷いがあるのなら、それは会社を大きくしていこうという気持ちがあるからだと思いますので、その際は株式会社を選択しておくことをお勧めします。

関連リンク