中小企業の税金と会計
会社の清算は手法を間違えると借金だけ
最終更新日:2018年3月31日
会社の解散・清算の税務が、平成22年10月1日以降大幅に変わりました。それ以前の課税方法は、実現した所得に対して課税するのでなく、会社を解散して所有している資産を換価処分し、負債を弁済した残りの財産額が株主の拠出資本(資本金等の額+利益積立金額等)を上回る分配が行われる場合に、この上回る部分に対して課税するというものでした。
しかし、解散の前後で課税方法が違うため、その違いを利用した租税回避行為や課税の不公平が生じる可能性があることが指摘されていました。
そこで、会社解散後においても通常の事業年度と同様な課税方法に改正され、清算所得課税は廃止されました。
清算所得課税廃止により講じられた措置
1.期限切れ欠損金の損金算入
上記記載の課税方法の違いは、債務免除益などが計上された場合、従来の清算所得課税では残余財産に影響を与えることがないため課税されることがありませんでしたが、通常の所得計算では、税務上切捨てとなった欠損金の分だけ課税所得が増えることとなり、残余財産がないにも拘わらず納税が発生することにあります。
そこで清算所得課税との税負担の調整をするために、残余財産がない(通常債務超過の状態をいい、各清算事業年度及び清算確定年度において、資産及び負債を時価で評価した実態貸借対照表によって判定します)と見込まれるときは、その事業年度前の各事業年度において生じた欠損金で一定のもの「期限切れ欠損金」の損金算入を認めるというものです。
期限切れ欠損金は次の(1)から(2)を控除した金額となります。
前事業年度から繰り越された欠損金額の合計額(当該事業年度終了の時の資本金等の額がゼロ以下である場合には、前事業年度から繰り越された欠損金の合計額から当該事業年度終了の時の資本金等の額を減算した金額)
青色繰越欠損金及び災害損失欠損金
(1)の「前事業年度から繰り越された欠損金額の合計」とは、その適用する事業年度の法人税申告書別表5(1)の期首現在利益積立金の合計額がマイナスの値である場合は、その絶対値となります。
2.残余財産を金銭以外の財産で分配する場合の税務上の取扱い
残余財産を金銭でなく、金銭以外の財産によって分配をする場合(「現物分配」といいます)において、分配資産を残余財産確定時に時価で譲渡したものとみなして、譲渡損益を計上することとなりました。
3.清算子会社の未処理欠損金の引継ぎなど
内国法人との間に完全支配関係のある他の内国法人が清算する場合に、残余財産確定時に未処理欠損金がある場合は、親会社にその未処理欠損金を引き継ぐことが出来るようになりました。
また、この場合に親会社で所有している子会社株式の帳簿価額は、子会社消却損としてその他資本積立金として処理することとなり、その消却損を損金算入することが出来なくなりました。
4.連結納税との関係
連結子会社が解散する場合には、原則として連結納税の承認取消事由から除外されました。
解散から清算結了までの税務申告手続図
2カ月以内に申告と納税が必要
1.解散事業年度の確定申告
会社を解散した場合は、その事業年度開始の日から解散の日までの期間を1事業年度とみなして、2月以内に申告及び納税をしなければなりません。この場合の所得金額の計算は、通常の事業年度と同じく益金の額から損金の額を引いた金額になります。税率についても同じです。また、青色欠損金などの繰越控除もあり、中小法人以外の法人においても通常年度において適用できない「欠損金の繰戻還付」も適用されます。
ただし、次の特例については適用がありません。
(1)中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却及び税額控除
(2)事業基盤強化設備を取得した場合の特別償却及び税額控除
(3)その他租税特別措置法上の特別償却及び税額控除
(4)試験研究を行った場合の税額控除
(5)租税特別措置法上の諸準備金の新たな設定
(6)特定の資産譲渡や収用等に伴う特別勘定の設定
2.清算事業年度の各年度の確定申告
会社の解散の日の翌日より1年間を1事業年度(破産手続開始決定などによる解散の場合は定款に定めた事業年度)とみなして、2月以内に申告及び納税をしなければなりません。ただし、残余財産の確定の日を含む事業年度を除きます。この場合の所得金額の計算は、原則として解散をしていない場合の所得金額と同じです。
青色欠損金などの繰越控除、減価償却、貸倒引当金の繰入、寄付金の損金不算入、交際費課税などの適用があります。また、税率についても通常年度と同じです。
ただし、次の制度については適用がありません。
(1)解散事業年度に適用のない上記記載の(1)~(6)
(2)資産譲渡などによる圧縮記帳
(3)収用換地等の特別控除
(4)特定同族会社の留保金課税
3.清算確定申告
残余財産が確定した場合には、確定した日から1月以内(残余財産の分配がある場合には分配をする日の前日)に申告及び納税をしなければなりません。この清算確定事業年度の所得の計算は、前述しました解散事業年度及び各清算事業年度の確定申告と同様に清算課税ではなく、通常の所得課税となりますが、以下の点で異なります。
- 貸倒引当金及び返品調整引当金の繰入が出来ない。
- 一括償却資産については、未償却残高を全額償却する。
- 繰延消費税額等については、未償却残高を全額償却する。
- 債務免除益については、全額益金に算入する。この債務免除益によっては課税所得が発生することがある。
- 事業税の損金算入時期は、事業税の申告書を提出した日の事業年度となるが、清算確定年度は提出した日では損金に算入することが出来なくなる。そこで、清算確定年度の事業税の計算においては、その事業税を算入する前の金額を課税標準として計算をし、その事業税の金額を損金として算入し法人税等(事業税を除く)を計算する。
- 前述した現物分配は、清算確定事業年度で行う。
今回紹介した一連の手続き以外にも以下のような検討が必要な問題があります。
- 完全支配関係の子会社を解散・清算した場合
- 解散事業年度以降の高額な役員退職金の損金不算入の問題
- 清算結了までの外形標準課税される資本金1億円超の判定は、解散事業年度末で判定されること
- 残余財産の分配など
以上のように複雑で難解なので、債務免除をして貰う時期などを一歩間違えれば、思わぬ税金が課税されることにもなります。よく専門家に相談のうえ、実行するようにして下さい。